彼女が消えた浜辺(2009年、イラン)
イランのテヘランに住む3組の家族が、友人のバツイチ男性アーマドと独身美女エリを誘い海辺の街へバカンスに。3家族の狙いは2人を引き合わせ、カップルにすること。うまく2人きりにさせると、男は美女に離婚理由を聞かれる。元妻から別れ際に告げられた言葉が、このセリフだ。
美女はこの言葉を聞いて意味深にうなずくと、携帯もバッグも残したままこつぜんと姿を消す。失踪したのか……。
バカンスに使われた車は旧式ながら、今どきのSUVみたいな感じ。堅いイメージのある国だが、庶民の日常に欧米化が浸透。ずいぶん開放的なのが、新鮮で興味深い。
そんな中、美女の失踪をキッカケに、人間のエゴが少しずつ明らかに。3家族のほころびが、浮かび上がっていく過程が人間ドラマとして非常に面白い。
本作を高評価されたアスガー・ファルハディ監督は、ベルリン映画祭で最優秀監督賞を受賞。イランの庶民生活の中からミステリーを見事に丁寧にとらえて、見る者をグイグイと引き込んでいく。役者たちの演技は自然体ながら、詩情豊かな演出がいい。
イスラム社会特有の古い因習は、戦前の日本に見られる男尊女卑的な感覚に近い。エリは、そこから抜け出したがっているようにも見える。何げないミステリーの本作をもり立て、ラストまで目が離せない傑作に仕上がっている。