「山桜」にみる“運命の出会いまで結婚は繰り返す”の教訓
2008年 篠原哲雄監督
藤沢周平の時代小説を映画化。
北国の小藩に暮らす野江(田中麗奈)は夫に先立たれ、今は磯村という武家に嫁いでいる。この家の義父は貸金を営んで苛烈な取り立てをする上に、重臣の諏訪に取り入って私腹を肥やそうとしていた。ある日、野江は墓参りの際に手塚弥一郎(東山紀之)という武士に山桜の一枝をたおってもらい、「今はお幸せでござろうな」と声をかけられる。実は野江は手塚に縁談を申し込まれながら断った経緯があった。
そんな中、諏訪の圧政によって農民の苦しみは深刻化し、見かねた手塚は諏訪を暗殺。手塚を侮蔑する夫に意見した野江は離縁され、手塚の母(富司純子)を訪ねるのだった……。
原作は21ページの短編。野江と手塚が会うのは一場面だけだが、野江は手塚への思慕を募らせる。そこに農民への圧政が加わった構成だ。
昨今の時代小説は江戸時代を庶民が生き生きと暮らすパラダイスに描いているが、現実の農民は年貢と労役に苦しめられていた。東京・目黒の権之助坂はこの地の名主・菅沼権之助に由来する。元禄時代、貧しい農民のために年貢軽減を願い出た権之助はお上の怒りを買い、磔刑(たっけい)に処せられた。大坂では大塩平八郎の乱が起きている。