彼は神が間違いを犯さないかぎり物書きにはなれないだろう
作家になりたいという大学3年生の青年とメールでやりとりするようになり、改めてため息をついた。彼は小説を3本書きためているという。きけば十分に出版社の応募要項に足りる枚数の小説を書いている。つまりなんらかの賞を得られ、デビューできるチャンスはあるのだ。が、青年はどの出版社にも応募していないという。Y編集者に尋ねると「落選するのは嫌だし時間の無駄なので、その意味でもアドバイスが欲しい」と言っているという。
またため息をつく。「いけ好かないガキゃぁ」なんて呟いてもみる。恐らく青年は九分九厘、神が間違いを犯さないかぎり物書きにはなれないだろう。なぜなら若くしてデビューする作家さんのほとんどが賞を受賞して世に出ているからだ。その多くの本は身震いするほど力強い。若さゆえの感受性というやつを、これでもかとばかりに叩きつけてくる。要は「書かずにはいられないなにか」を持ち、解き放ったから誰か一人の目に留まったのだ。でも青年は「落選するのはイヤン」「時間の無駄もイヤン」とイヤンイヤンばかりである。それでは悪魔は手を差し伸べてはくれない。かつてのわたしがそうだ。