伝説の俳優座「花の15期生」抱腹絶倒トーク!今だから話せる“お宝”交遊エピソード
「俳優座花の15期生」(1963年に養成所に入所)といえば、原田芳雄、林隆三、夏八木勲、秋野太作、前田吟、河原崎次郎、地井武男、浜畑賢吉、竜崎勝、栗原小巻、太地喜和子、赤座美代子、三田和代……と錚々(そうそう)たるスターを輩出した期だが、その中の3人、小野武彦、村井國夫、高橋長英が初めて舞台で共演することが話題となっている。俳優座養成所時代の交遊など知られざるエピソードを語ってもらった。
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――卒業後、3人が舞台で共演するのは初めてということですが。
小野「僕と長英、僕と村井は共演があるんですけど、長英と村井はこれまでなかったので、3人が出るのは今回が初めてです」
村井「テレビドラマでは共演したよね。『吉田松陰』(1969年)とか。長英とは『不毛地帯』(79年)でも共演してる」
高橋「そうだっけ? おぼえてないなあ」
村井「何言ってんの。絡みだってあった。あなたが僕のことを忘れてるだけ(笑い)」
伝説の俳優座「花の15期生」
――15期になぜ個性的な俳優が集中したのでしょう?
村井「養成所の杉山主事に聞いたことがあるんだけど、意図的にそんなはみ出したタイプを選んだらしい」
小野「演技論を戦わせる演劇青年というより、どっちかといえばヤンチャなヤツばかりだったね。一番演劇青年らしかったのは原田芳雄や後に劇作家になる斎藤憐かな。原田は病気で1年留年したから同期になったけど、彼は最初から我々とは別格だった」
――役者になるきっかけは?
村井「佐賀高校時代の演劇部の部長が先日亡くなった辻萬長さん。彼に演劇の基本を一から十まで仕込まれた。萬長さんが上京して俳優座の養成所に入ったので、僕も高校卒業して追いかけてきたんです。萬長さんよりマスクはいいし背も高いし、役者向きだろうと(笑い)。萬長さんとは結局舞台の共演が一度もなくて……井上ひさしさんに2人の芝居を書いてもらおうと言ってたのに井上さんも先に逝っちゃうし。それが一番の心残りです」
小野「映画が好きで自転車で10分くらいの所に日活撮影所があったので、よく撮影現場を見に行ってました。石原裕次郎さんには憧れたけど、スター俳優の脇を固める草薙幸二郎さんや垂水悟郎さんなど渋い演技をする人がみんな新劇俳優。映画俳優になるには演劇の勉強をしなきゃいけないと思っていたら、たまたま玉川学園高等部の同級生で一足先に養成所に入った樋浦勉が『芝居の勉強をするなら1年待って受験すれば』と言うので玉川大1年で中退して養成所に入ったという次第です」
高橋「僕はジェームズ・ディーンに憧れてましたから。スターになればお金が入り、女の子にチヤホヤされて、スポーツカーを乗り回せると。実に安易な動機です(笑い)」
村井「長英はとにかくモテたからね。養成所出たらすぐテレビドラマ『みつめいたり』(68年)で主役。相手役は栗原小巻ですから。売れはじめたらすぐイギリスのスポーツカーMGBを買って乗り回していた」
小野「長英は同期で一番最初に売れたからね」
村井「養成所の頃は、長英がナンパした女の子2人のうちの1人を僕がもらうというパターン。といっても一緒に銀座をブラブラするだけ」
高橋「手をつなぐことさえできなかったから」
村井「時代が違うんだろうね。お茶を飲んで、さようなら。あの頃の僕らは結構純情だったね」
サンドイッチマンのアルバイトに2人がタカリに来た
小野「僕はモテなかったなあ(笑い)。それより、男同士でつるんでいることが面白かった。村井は下戸なのによく一緒に遊んだね。養成所を終えてからも『これから3カ月に1回は会おうよ』と言ったのが、村井、長英、地井武男、前田吟、竜崎勝、夏八木勲。この7人で『ドリーミー7』という事務所までつくっちゃった。今思えば同じ年代で、お互い商売敵じゃないの。でも役柄が違うし、仲がよかったからそんなこと考えもしなかった」
高橋「10年くらい続いたけど、それぞれ方向性が違ってきたから、友情はそのまま継続して自然解消だった」
――今も小劇場や新劇の役者はアルバイトで生活していますが?
村井「みんなアルバイトです。僕は喫茶店のボーイ」
小野「僕はサンドイッチマン」
高橋「よく武彦にタカリに行ったね。サンドイッチマンは日銭だから」
小野「夕方から11時ごろまで5時間、夏八木や前田吟と街頭に立って日当1000円。1割引かれて900円。ちょうどバイトが終わった頃を見計らってこの2人が現れる」
村井「牛丼70円、二級酒が70円かそこらだから十分飲んだり食ったりできるんです」
小野「ようやくバイトが終わった頃に、長英が『さあ、軽く一杯行こうか』なんて現れるんだから」
高橋「あの頃はみんなお金持ってないからね。人のカネは自分のカネだった」
小野「渋谷から六本木まで、都電の電車賃15円がなくて歩いて稽古場に来ていたヤツが多かったね」
村井「夏八木なんか財布に20円しかなくて、いつも歩きだった」
正月は熱海で花札
――同期には錚々(そうそう)たる美人女優がいましたが?
高橋「いつも稽古場で見てるから興味が湧かない。お互い分からない部分があるから恋愛感情が生まれるんであってね。それよりも男同士で遊んだほうが楽しかった」
――どんな遊びを?
村井「花札はよくやったね。正月に熱海にみんなでふらりと行って旅館にこもって花札大会」
小野「20代の頃だから村井と長英は結婚して家庭持ちですよ。それが奥さんを置いてバクチに行っちゃうんだから(笑い)」
高橋「なぜかあの頃は花札ばかりやってたね。夏八木の狭いアパートで奥さんが産気づいているのに、その布団のそばで僕らが花札やってるんだから、非常識だよな。よく奥さん怒らなかったよ」
村井「そういえば、長英の花札のみ込み事件があった」
小野「長英が地井に負ける札を引いたもんだから、それをのみ込もうとしたんだ」
高橋「負けたら正月を過ごせないから必死でね。花札は硬いからのみ込めなくて、口の中でもぐもぐさせてたら地井が追いかけてきて口に指を突っ込んで吐かそうとしたんだよ。今でもおぼえてるよ、松と鶴の20点札」
小野「そんなバカなことをやってた3人ですが傘寿を前にして初共演です。ぜひ多くの人に見てほしいですね」
(聞き手・山田勝仁=演劇ジャーナリスト)
■トム・プロジェクト・プロデュース「にんげん日記」(作・演出=東憲司)は10月27~31日、新宿・紀伊國屋ホールで。戦後間もなくの九州のとある町の銭湯を舞台に繰り広げられる人情喜劇。3人のほかに賀来千香子、大手忍が出演。
▽高橋長英 1942年、横浜市出身。「若者たち」「七人の刑事」「白い巨塔」など社会派ドラマで活躍。2015年、トム・プロジェクト・プロデュース「スィートホーム」で、第50回紀伊國屋演劇賞個人賞を受賞。
▽小野武彦 1942年、東京・狛江市出身。「科捜研の女」シリーズや「踊る大捜査線」シリーズで北村総一朗、斉藤暁との「スリーアミーゴス」で人気に。TBS系「日本沈没―希望のひと―」にセミレギュラーで出演中。
▽村井國夫 1944年、佐賀市出身。ミュージカル、ストレートプレーで活躍。声優ではハリソン・フォードの吹き替えが有名。読売演劇大賞優秀男優賞、紀伊國屋演劇賞個人賞など数多くの賞を受賞。