NHK「倫敦ノ山本五十六」は新たな歴史像の構築に挑んだ秀作だ
大量のお笑い番組。怒涛のようなドラマ一挙放映。年末年始のテレビはエンタメ一色だった。そうなると、少し違ったものが見たくなる。昨年12月30日に放送された、太平洋戦争80年・特集ドラマ「倫敦ノ山本五十六」(NHK)は最適な一本だった。主演は香取慎吾。
山本五十六といえば、言わずと知れた「連合艦隊司令長官」である。しかし、このドラマがスポットを当てたのは司令長官となる5年前。1934年に行われた第2次ロンドン海軍軍縮会議予備交渉に、海軍側首席代表として参加した山本の葛藤と苦闘だ。
当時の海軍は強気一辺倒。英米に有利な軍縮など屈辱でしかなかった。だが、山本は知っている。このままでは戦争へと突入し、必ず負けることを。目指したのは「平和と誇りの両立」だった。
軍縮条約を利用して開戦を避けようとする山本。納得しない軍上層部。結局、条約は成立せず、皮肉にも山本は国民的英雄へとまつり上げられる。複雑な心境の山本を、香取が丁寧に演じていく。
山本が唯一、心を許せたのが海軍兵学校同期で親友の堀悌吉(片岡愛之助)だ。山本から届いた多数の書簡を保存していた、実在の堀。そこには、やがて真珠湾攻撃を企図する山本の苦悩が記されていた。この第一級史料も踏まえ、脚本の古川健と演出の大原拓ら制作陣が、新たな歴史像の構築に挑んだ秀作だ。