著者のコラム一覧
伊藤さとり映画パーソナリティー

映画コメンテーターとして映画舞台挨拶のMCやTVやラジオで映画紹介を始め、映画レビューを執筆。その他、TSUTAYA映画DJを25年にわたり務める。映画舞台挨拶や記者会見のMCもハリウッドメジャーから日本映画まで幅広く担当。レギュラーは「伊藤さとりと映画な仲間たち」俳優対談&監督対談番組(Youtube)他、東映チャンネル、ぴあ、スクリーン、シネマスクエア、otocotoなど。心理カウンセラーの資格から本を出版したり、心理テストをパンフレットや雑誌に掲載。映画賞審査員も。 →公式HP

「ドライブ・マイ・カー」米アカデミー賞ノミネートの“決め手”は…

公開日: 更新日:

 先日、第94回米アカデミー賞ノミネートが発表されました。授賞式は日本時間の3月28日(月)。日本人の多くが、国際長編映画賞以外にも脚色賞、監督賞、作品賞でノミネートされた『ドライブ・マイ・カー』に注目しています。そもそもカンヌ国際映画祭脚本賞をはじめ、世界の名だたる映画賞を席巻している本作。このまま行けば韓国映画『パラサイト 半地下の家族』(2019年)のように国際長編映画賞以外にも受賞なるか? と期待が膨らみます(『パラサイト』は他に作品賞、監督賞、脚本賞を受賞)。

■そもそもアカデミー賞がなぜ注目なのか

 ではなぜ、これほどまでに米アカデミー賞に注目が集まるのでしょうか。そもそもハリウッド映画という言葉が知られるほど、世界の映画マーケットのメインストリームを歩いているのがアメリカ映画です。その理由のひとつに「映画の都」ともいわれているハリウッドには、世界公開を意識した映画製作をする大手映画会社が集中していることにあります。

 ロサンゼルスで開催される米アカデミー賞は、俳優を含む映画業界で働く人々が審査員を務め、ロサンゼルスの映画館で連続1週間以上、有料上映された作品が対象になります。この華やかなステージで受賞すれば世界的に知られるというメリットが生まれ、興行的にも大いに役立つのです。

 しかも日本映画が米アカデミー賞作品賞にノミネートされたのは史上初であり、監督賞ノミネートは勅使河原宏監督(『砂の女』1964年)、そして黒澤明監督(『乱』1985年)以来36年ぶり。それを踏まえた上で今年の監督賞ノミネーションの顔ぶれを見ると改めてアカデミー賞というものが、世界を代表するエンターテイメント賞だと実感してしまいます。

スピルバーグら巨匠もノミネート、本命は?

 多くの映画ファンに崇拝され、今までも『シンドラーのリスト』(1993年)、『プライベート・ライアン』(1998年)で2度監督賞を受賞しているスティーヴン・スピルバーグが、アカデミー賞10部門を受賞したミュージカル映画の金字塔をリメイクした『ウエスト・サイド・ストーリー』でノミネート。

 続いて『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』(2007年)、『ファントム・スレッド』(2017年)で監督賞にノミネートされてきたポール・トーマス・アンダーソン監督が『リコリス・ピザ』で再び名を連ね、名優ケネス・ブラナーが自身の少年時代を映画化した『ベルファスト』で『ヘンリー五世』(1989年)以来の監督賞にノミネート。そして女性監督であり『ピアノ・レッスン』(1993年)で脚本賞を受賞したジェーン・カンピオンが『パワー・オブ・ザ・ドッグ』で作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞含む11部門12ノミネートという本年度最多で本命とも囁かれています。

■濱口竜介監督の世界基準な映画づくり

 映画ファンならば興奮を隠せない錚々たる顔ぶれとなった本年度アカデミー賞監督賞ノミネート。そこに脚本力、演出力はもちろんのこと、画作りにおいても独自の世界観を持つ43歳の濱口竜介監督が、世界で愛される村上春樹の短編をオリジナル映画のように紡ぎ上げ、喪失と再生を綴る映画『ドライブ・マイ・カー』で挑みます。

 本作がこれだけの評価を得た背景には、ロシアの文豪であり劇作家のチェーホフの「ワーニャ伯父さん」を手話も入った多言語演劇で見せ、さらに広島平和記念公園で肌の色も言語も異なる役者たちが演劇を通して繋がるという、世界平和とエンターテイメントの力へのメッセージも汲み取られたのではないかと考えます。

 まさに日本人に向けてではなく、世界の人々へ向けて作られた映画であるからこそ言語を超えたノミネーションに至ったのです。

■関連キーワード

最新の芸能記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    巨人原前監督が“愛弟子”阿部監督1年目Vに4日間も「ノーコメント」だった摩訶不思議

  2. 2

    巨人・阿部監督1年目V目前で唇かむ原前監督…自身は事実上クビで「おいしいとこ取り」された憤まん

  3. 3

    松本人志は勝訴でも「テレビ復帰は困難」と関係者が語るワケ…“シビアな金銭感覚”がアダに

  4. 4

    肺がん「ステージ4」歌手・山川豊さんが胸中吐露…「5年歌えれば、いや3年でもいい」

  5. 5

    貧打広島が今オフ異例のFA参戦へ…狙うは地元出身の安打製造機 歴史的失速でチーム内外から「補強して」

  1. 6

    紀子さま誕生日文書ににじむ長女・眞子さんとの距離…コロナ明けでも里帰りせず心配事は山積み

  2. 7

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  3. 8

    メジャー挑戦、残留、国内移籍…広島・森下、大瀬良、九里の去就問題は三者三様

  4. 9

    かつての大谷が思い描いた「投打の理想」 避けられないと悟った「永遠の課題」とは

  5. 10

    大谷が初めて明かしたメジャーへの思い「自分に年俸30億円、総額200億円の価値?ないでしょうね…」