生きるために政治は必要だが、生き心地を確かめるには文学が役に立つ
このあとはいよいよ中森さんです……とぼくが言いかけたところでサプライズ。鈴木涼美さんのご登場。芥川賞候補作『グレイスレス』から、ご実家の様子を仔細に描いた場面を朗読。これはすばらしかった。数日経ったいまでも「脚立」の響きがちくりと痛みを伴って耳に残るほどだ。そして中森さん。新作は、もし生きていたら現在85歳の寺山修司がアイドルグループをプロデュースするという奇想を熱い筆致で描く快著。それをときに寺山を思わせる青森風イントネーション(本人曰く「特訓した」)を交えて読みあげるのだ。ねじれた時空に身を置いたような奇妙な感覚を十分に愉しませてもらったのだった。
生きるためには政治が必要だが、生き心地を確かめるには文学が役に立つ。書き言葉を話す時間を通して、そう確信した風花朗読会の夜だった。