映画で理解するLGBTのリアル 日本は「歌舞伎」「宝塚」で性の多様性を受け入れてきた
トイレや浴場の設計運用を工夫することで性犯罪を抑止したり、テストステロン測定に基づく客観的基準を導入してスポーツ競技の公平性を確保したりすることは技術的に相当程度に可能であろう。
むしろ、イスラム国家チェチェンでの凄まじいLGBT弾圧を描いたデビッド・フランス監督「チェチェンへようこそ ~ゲイの粛清~」(20年)のように、言われなき社会的差別を受けているジェンダー少数者の苦悩に光を当て、人間としてその生を尊重する制度と慣行をつくっていくことが大切ではないだろうか。
最後に、キアヌ・リーブス主演、チャド・スタエルスキ監督の「ジョン・ウィック:パラベラム」(19年)も必見だ。「裁定人」を演じたエイジア・ケイト・ディロンは「ノンバイナリー」を自認している。ノンバイナリーとは、男性や女性という二者択一の線引きを超えた性自認の在り方。日本では歌手・宇多田ヒカルが21年に公表している。
男優でもなく女優でもない、一人の俳優としてのディロンの凜とした演技にただただ引き込まれる。性自認の在り方が多様化するという変化を恐れるのではなく理解を深めること。それは、映画をそして社会を、より豊穣なものにすることだと思われるが、いかがであろうか。