NHK「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」公安部の闇に迫る出色の調査報道
事実は小説より奇なり。使い古された言葉かもしれないが、優れたドキュメンタリーにはピッタリの表現だ。9月24日に放送された、NHKスペシャル「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」はそんな一本だった。
3年前、横浜市内にある中小企業の社長ら3人が逮捕された。容疑は軍事転用が可能な精密機械の中国への不正輸出。身に覚えのない経営者たちは無実を主張するが、警察側は聞く耳を持たない。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。
ところが突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生する。実は「冤罪」だったのだ。会社側は東京都に賠償を求めて裁判を起こし、今年6月、証人となった現役捜査員が「まあ、捏造ですね」と告白した。
制作陣は関係者への徹底取材で「捏造」の構造を探り、「冤罪」が生まれる背景に光を当てていく。中には勇気を奮って内部告発を行い、組織の暴走と腐敗を止めようとした捜査員もいた。しかし、捏造の当事者やその上司には反省も罪の意識もない。彼らにとっては正当な業務なのだ。
■決して他人事ではない
背筋が寒くなるのは、決して他人事ではないからだ。公安部がいったん狙いを定めたら、証拠も含めて「何とでもなる」という実例であり、誰もが「自分はこの強大な組織に抵抗できるか」と考えずにはいられない。リアル公安部の闇に迫る、出色の調査報道だった。