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碓井広義メディア文化評論家

1955年長野県生まれ。慶應義塾大学法学部政治学科卒業。千葉商科大学大学院政策研究科博士課程修了。博士(政策研究)。81年テレビマンユニオンに参加。以後20年、ドキュメンタリーやドラマの制作を行う。代表作に「人間ドキュメント 夏目雅子物語」など。慶應義塾大学助教授などを経て2020年3月まで上智大学文学部新聞学科教授。専門はメディア文化論。著書に「倉本聰の言葉―ドラマの中の名言」、倉本聰との共著「脚本力」ほか。

NHK「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」公安部の闇に迫る出色の調査報道

公開日: 更新日:

 事実は小説より奇なり。使い古された言葉かもしれないが、優れたドキュメンタリーにはピッタリの表現だ。9月24日に放送された、NHKスペシャル「“冤罪”の深層~警視庁公安部で何が~」はそんな一本だった。

 3年前、横浜市内にある中小企業の社長ら3人が逮捕された。容疑は軍事転用が可能な精密機械の中国への不正輸出。身に覚えのない経営者たちは無実を主張するが、警察側は聞く耳を持たない。長期勾留の中で1人は病気で命を落とした。

 ところが突然、「起訴取り消し」という異例の事態が発生する。実は「冤罪」だったのだ。会社側は東京都に賠償を求めて裁判を起こし、今年6月、証人となった現役捜査員が「まあ、捏造ですね」と告白した。

 制作陣は関係者への徹底取材で「捏造」の構造を探り、「冤罪」が生まれる背景に光を当てていく。中には勇気を奮って内部告発を行い、組織の暴走と腐敗を止めようとした捜査員もいた。しかし、捏造の当事者やその上司には反省も罪の意識もない。彼らにとっては正当な業務なのだ。

■決して他人事ではない

 背筋が寒くなるのは、決して他人事ではないからだ。公安部がいったん狙いを定めたら、証拠も含めて「何とでもなる」という実例であり、誰もが「自分はこの強大な組織に抵抗できるか」と考えずにはいられない。リアル公安部の闇に迫る、出色の調査報道だった。

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