巨匠・山田洋次監督は、なぜ現在もコメディーにこだわるのか? 92歳で語った夢は
そしてこう続けたそうだ。
■「好きな女の子の前で下痢になるのは悲劇じゃないか」
「たしかにおかしなシーンだ。でも君にとっては泣きたいぐらい恥ずかしい。好きな女の子の前で下痢になるのは悲劇じゃないか。君は泣きながら走るんじゃないか」
時を超えて、語り継がれていくのが名作だ。当時、演技経験ゼロの武田を抜擢したところから、山田監督は練りに練っていたようだ。後日談として、武田は自分をキャスティングしたことについて、監督の当時の心境を聞き出している。同著にこうある。
《短い手紙で返事を下さり、そのあたりの事情には全く触れてありませんでしたが、『元気でやっていますか』と近況を尋ねられ、『撮影の日々が楽しかった』と感慨深げに振り返る文面でした。ただ締め括りの一文に、私の起用について『ぼくは賭けに勝ったね』とありました。嬉しい限りの一言です》
「もうやめてくれ」と言いたくなるほど笑える新作コメディーが楽しみになるのは、映画ファンだけじゃないはずだ。
(編集委員・長昭彦/日刊ゲンダイ)