衝撃的だった中村紘子さんの言葉「牛肉は腐りかけがおいしい。ピアニストの腕の筋肉も同じ」
牛肉は腐りかけが一番おいしい、ピアニストの腕の筋肉も同じだと。
「練習で痛めつけて痛めつけて、壊れるギリギリの時が一番いいのよ」
中村さんはパワフルな演奏でしたけど、毎日7時間も8時間も弾くと筋肉がおかしくなってくるそうです。それでもコンサート前は自分を追い込んで筋肉疲労を極限ギリギリまで持っていくと。
そうやってコンサートにのぞむと、終わった途端に腱鞘炎になるそうです。
当時30代だった私には衝撃的で。「50年のキャリアがある天才ピアニストもここまで自分を攻めるのか」と。
もうひとつ、年をとるとミスタッチをして「あの人は下手になった」などと言われそうですが、中村さんいわく、「毎日、刃の上を歩いているようなもの」と。こちらに転べば失敗だけど、反対に転べば素晴らしい演奏になる。「失敗」と「素晴らしい演奏」、その分かれ目に、ピアニスト人生を懸けてチャレンジするせめぎ合いがあるとおっしゃられて。
そのお話を聞き、聴衆もミスタッチを「下手だなあ」と思うのではなく、その背後にあるピアニストの人生を聴くくらいの気持ちがないと損しちゃうかも、と思いました。中村さんは私の音楽の捉え方を変えてくださった方でした。