30年後も問題ないのはエビデンスにのっとった手術の賜物
手術は無事に終わり、足の血流もしっかり改善しました。
それから十数年後のことです。その頃、私は新東京病院に移って心臓血管外科部長を務めていました。ある日、自然気胸で入院されていた患者さんが私に会いたがっているというので、病室まで伺いました。話をしてみると、先にお話しした足の動脈のバイパス手術を行った患者さんの息子さんだったのです。
後日、かつて私が手術をした父親と再会しました。そのとき、「手術から10年以上経っても足はまったく問題ない。快調そのものだ」とお話しされていました。その後、その患者さんとは年賀状のやりとりが続き、手術から25年ほど経った頃に連絡をした際も、「足は問題ない」とのお話でした。患者さんは当時80歳を越えていましたが、それでもトラブルが起こらなかったのは、最初の手術で“教科書”に書いてあるようなエビデンスにのっとった解剖学的な方法を行ったからに他なりません。それが、いかに患者さんにとって良い治療だったのかを思い知らされました。
エビデンスに基づいた手術を行い、30年近く経っても何の問題もない患者さんがいる一方、エビデンスに基づいたとはいえない手術によって再手術が必要になった患者さんには、大きな負担を強いることになってしまいました。