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名郷直樹「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長

「武蔵国分寺公園クリニック」名誉院長、自治医大卒。東大薬学部非常勤講師、臨床研究適正評価教育機構理事。著書に「健康第一は間違っている」(筑摩選書)、「いずれくる死にそなえない」(生活の医療社)ほか多数。

「高齢者の肥満が少ない」という統計の本当の意味

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 若いうちは肥満者の割合が低く、中年でピークを迎え、高齢になるにしたがって再び肥満者の割合が低くなる――。そんな結果を見ると、「若いころから中年にかけて太って、高齢になるにつれ痩せていくのか」と思うかもしれません。しかしそうとは限りません。この結果は単にある都市のそれぞれの年齢層の肥満者の割合を見ただけで、20代の人を50年以上追跡してどうなったかを見た結果ではないからです。

 男性の20代と50代を例に考えてみましょう。20代の肥満者の割合は25.7%、50代では36.5%です。しかし、この50代の人たちの30年前がどうだったかはこのデータから読み取ることはできません。今の50代は30年前にも肥満者が多かったかもしれないからです。つまり、このデータから分かることは、「今の20代」に比べて、「今の50代」に肥満者の割合が高いというだけです。若い時から中年にかけて肥満になっていくということではありません。

 さらに、70歳以上(28.6%)と比べてみると、「今の70歳以上」は「今の50歳代」より肥満者の割合が低いとはいえます。また、50歳から70歳以上にかけて人は死んでいきますから、この違いは単に昔と今の違いだけでなくて、中年で太っている人が死んでしまうために、高齢者の肥満者の割合が低くなっているかもしれないのです。

 年齢ごとの肥満者の割合という単純な数字でさえ、なかなか正確に読み込むのは難しいのです。逆に言えば、数字で人をだますことは、少しの知識があれば、案外簡単ともいえるのです。

【連載】生活と健康 数字は語る

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