一色伸幸さん うつ病は「心のかぜ」ではなく「心のがん」
そのうちに何も書けなくなり、階段から転げ落ちたり、家のコンセントカバーを全部外したり、家の廊下で見えない人に道を譲ったり、意味不明なことをするようになっていたようです。
見かねた妻に引っ張られて精神科医の元へ行ったのは34歳のときです。母親の同級生のご主人で、子供の頃からよく遊びに行っていた病院でした。幼い頃のボクを知る顔見知りの先生だったことが治療にもいい影響を与えたと思います。
じっくりとしたカウンセリングで「うつ病」と診断された後は、4~5種類の薬を使い、組み合わせや割合を変えて2~3週間ずつ試していきました。自分に合う組み合わせになったのは半年後ぐらい。昼間の眠気が減り、夜眠れるようになったんです。
■生きていることが退屈な映画そのもの
一番うつがひどいときは、布団から出られませんでした。なんのやる気も起きません。幼いわが子が話しかけてくれても何も感じないんです。
うつは、脳と心をつなぐ糸が切れてしまった状態だと思います。たとえばジョークが笑えるのは、「こんな発想で、こんなゴロ合わせで今この人は笑いをつくった」と脳が理解して、それが心につながって、「面白い!」と感じるからです。でも、糸が切れていると脳で理解したものが心まで届かない。食事をしても、出汁の風味や鮮度の良さは十分わかるのに、それが「おいしい!」につながらない。とてもキレイな女性が耳元で色っぽい言葉をささやいても、ウキウキもムラムラも起きないのです。