一色伸幸さん うつ病は「心のかぜ」ではなく「心のがん」
うつの最中は、うれしいとか楽しいとか、悲しいとか憎たらしいとか、そういった“心の揺らぎ”がひとつも起こりません。
想像してみてください。心がまったく動かない退屈な映画を。うつ病の患者にとっては、生きていることが退屈な映画そのものなのです。景色や音楽、ストーリーやセリフに感動も驚きもない。そんな映画を延々と見させられたら、映画館を出て行きたいと思いませんか? それがつまりうつの「希死念慮(死にたい気持ち)」です。決して自殺願望ではなく「その映画館を出たい」だけなんです。
ボクは2年間寝ていました。その選択は正しかったと思います。脳と心をつなぐ糸を修復する一番の薬は「時間」なんじゃないかな。今でも気分が沈むことはありますが、そんな日は仕事をやめちゃう(笑い)。少し無責任になって休めば治るからです。そうでなくても、夕方4時には仕事を切り上げて近所を走ったりします。心掛けているのは気持ちの切り替え。でも、決め事はなるべくつくりません。気分転換が義務になったら本末転倒ですから。
▽いっしき・のぶゆき 1960年、東京都生まれ。1982年に脚本家デビューし、87年の映画「私をスキーに連れてって」で一躍脚光を浴びる。映画「僕らはみんな生きている」「病院へ行こう」で日本アカデミー賞優秀脚本賞を受賞。うつ病療養から復帰後も精力的に作品を書き続け、2013年には東日本大震災後の女川を舞台にしたNHKドラマ「ラジオ」で数々の賞を受賞。近年は小説も次々と出版している。