<3>手料理を褒める 「おいしい」と言わなければ伝わらない
結婚式の翌日、佳江さんが最初の夕食に作ってくれたのは、ロシアの代表的料理、ビーフストロガノフだった。料理上手だった彼女は、クリームシチューひとつとっても市販のルーは使わず、小麦粉をバターで炒めるところから始めた。
「彼女は早くにご両親が離婚してましたから、ずっと前から外で働く母に代わって弟の分まで食事の世話をしていたそうです。ですから、彼女の料理はとてもおいしかった。私はその都度、手料理を褒めてきたのですが、作ってくれた料理について、子供の頃から『おいしい』ときちんと感謝の言葉を言っていました」
それには父親が反面教師になっているという。
「私の母は料理上手で、調理師免許まで持っていたほどです。だけど、うちの父は無口な人で、たとえおいしくても、おいしいと言わない人でした。昔の男性が皆そうだったといえばそうなのかもしれませんが、いつか業を煮やした母が、父に『おいしいの?』と聞いても黙っていた。『どうして黙っているの?』と聞くと、『黙っているということは、おいしいんだ!』と言う。私は幼いながらに『これでは伝わらないなぁ』と思っていました」