大切な儀式が失われる病院死 ほとんどの治療は在宅で対応できる
1980年代から在宅緩和医療に取り組んできた蘆野さんは、こう言う。
寝たきりやがん終末期の患者だけではなく、非がんの人、痛みのために常に医療用麻薬が必要な人もオーケーだ。筋萎縮性側索硬化症(ALS)などの神経難病や認知症のほか、日常的にたん吸引、酸素吸入、経管栄養などの医療的ケアが必要な人にも対応できる。重度の障害のある小児も在宅で対応できるようになってきたという。
「手術や放射線治療などの積極的な治療以外は、ほとんど在宅医療で行うことができます。病院では治癒や延命に焦点が当てられるので、患者にとって耐え難い苦痛を伴うこともあります。一方で在宅は、その人の生活や人生に焦点を当てた治療やケアを行います。優先されるのは、患者の尊厳を守ることです」
それには家族の“介護力”も必要だが、その人が暮らしている地域で最期まで過ごすことができる支援体制も整いつつあるという。より一層の地域包括ケアの体制を構築する取り組みだ。
「私が子供の頃は、自宅で家族に囲まれて亡くなるのが一般的でした。家族や地域の人が自宅でみとるので、一緒に暮らしている子供や孫も、死に至る過程から学びを得ることができたのです」