在宅死は全体の1割 「病院で延命」は幸せな死に方なのか
患者の死が間近に迫ってくると、その家族の多くは担当医に、一日でも長く生きられるようにして欲しいと要求する。元のように回復することはないと思いながらも、最後まで手を尽くしてもらう。それが残される自分たちに与えられた使命や役割のように感じ、医者に希望を託すのだ。
今まさに目の前で肉親が失われようとしている家族からすれば、これはむちゃな注文ではない。むしろ自然で当然な要望だろう。
そんな家族の思いをぶつけられる医者も、できるだけ家族の希望に沿うように努力する。医学教育の根本は「救命・根治・延命」だ。
わずかに残された命の火が消えないように、点滴や注射で薬剤を投入。考えられることをやり終えた末に患者は最期を迎えるのだ。
だが、多くの人にとって、これが理想的な死に方とは限らない。
「昔は自宅で亡くなるのが当たり前でした。1976年に病院死と在宅死が逆転し、現在、在宅で亡くなる人は全体の1割程度となっています。ただ、人生の最後の医療については、医者よりも看護師や介護士の方が先に疑問を持っていました。死は、誰にとっても自然なこと。それなのに患者の体の負担を顧みずに薬剤を投与し、1分でも長く生きてもらうことが正しいのだろうかという悩みです。『死は敗北である』と教育されてきたドクターは目覚めるのが遅かった」