「医療安全」の取り組みは患者さんを守るためにある
■医療事故が相次いだ日本でも整備が進んだ
日本では、99年に相次いで起こった医療事故が、医療安全の重要性を広く認識させたといわれています。同年1月、横浜市立大学医学部付属病院で2人の患者を取り違えて手術を行うという事故が起こりました。続く2月には都立広尾病院で抗凝固薬と取り違えて消毒液を点滴し、患者が死亡する事故が発生しました。 こうした事故をきっかけに、厚労省は2001年から「患者の安全を守るための医療関係者の共同行動(PSA)」という総合的な医療安全対策を推進し、医療機関の安全管理体制が整備されていくのです。
それまでの日本では、「医療事故はあってはならない」という考えから、医療事故が起こることを前提にした制度は整備されていませんでした。医療の現場では「パターナリズム」(強い立場にある者が、弱い立場にある者の利益のためだとして、本人の意思は問わずに介入や干渉を行うこと)が中心で、患者は「お医者さま」に従うのが一般的でした。
それが、患者さんの高齢化による病態の複雑化や医療の高度化、耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)感染症をはじめとする院内感染の発生などによって、医療チームの中から「施設の管理体制がおかしいのではないか」といった疑問の声が上がるケースが増えてきて、医療安全に対する考え方が徐々に固まってきました。さらに、国を挙げた組織的な医療事故防止策が加わり、推進されていくのです。こうした経緯によって、医療現場はかつての「お医者さま」から「患者さま」に変わったとよくいわれます。