「噛めない・のみ込めない」をサポートするのが言語聴覚士
食事ができるようになれば、体力も取り戻せ、寿命が延びることもあります。
つまり言語聴覚士に必要なのは、知識や技術に加えて、繊細な心配り、観察力、記憶力、相手が表現したいことをくみ取る洞察力や共感力です。いわば食生活のアドバイザーである言語聴覚士は、その人らしい生活をサポートする在宅医療において、なくてはならない存在なのです。
私たちが出会った患者さんで、90歳代前半の女性がいました。かつて入院中にゼリーを喉に詰まらせた経験がありましたが、元来食べることがとても好きな方だったので在宅医療に変えたことをきっかけに、口から物を食べるリハビリ(嚥下訓練)に挑戦したいとのことでした。病院に入院していては、「誤嚥性肺炎のリスクがあるから」と、患者さんの希望は受け入れてもらえないかもしれません。しかしそこは、患者さんの生きる喜びを重要視する在宅医療です。言語聴覚士が家族とともに嚥下訓練を開始しました。そして最終的には、念願のゼリーを口から食べられるようになったのです。
患者さんは5カ月ほどで旅立ちましたが、家族の「おばあちゃんはゼリーを食べられた時、ものすごくうれしそうだった。もっと、もっとと言ってくれた。最後の方は1口、2口だけだったかもしれないけど、食べることで前向きな気持ちが生まれたのか、『今日はお化粧をしたい』と、お気に入りの口紅を塗ったり、おしろいをはたいたりして、おばあちゃんらしく日々過ごせたと思います」という言葉が忘れられません。