外科医には心身の調整とコミュニケーション能力が欠かせない
こうした経験を重ねて課題をクリアした若手には、指導医が付いて執刀を任せる段階に進ませますが、その前に脱落してしまう若手もいます。プレッシャーに耐えきれず、習得しているはずの手技に支障を来して自分が考えているような動作ができなくなる、いわゆる「イップス」と呼ばれる状態になる。手術の前日になると緊張して眠れない。自律神経がコントロールできず手術に臨むと大汗をかいてしまう……。心と体、メンタルとフィジカルのコンディションをしっかり整えることができない若手は外科医には不向きと考えます。
さらに、手術の現場に立ったときに周囲としっかりコミュニケーションをとれるかどうかも重要です。手術は外科医ひとりで行うわけではありません。助手、麻酔科医、技師、看護師といったチーム全体で臨むものです。いわゆる「ソロ手術」といわれる脳神経外科や眼科の顕微鏡下手術の一部以外は、手術中にタイミングを見ながら周囲に声をかけたり、逆に周囲の言葉にしっかり耳を傾けるなど、コミュニケーションが欠かせないのです。
メンタルとフィジカルのコントロール、周囲とのコミュニケーションが問題なく実践できて、初めて外科医としてスタートラインに立てるといっていいでしょう。逆にそのどれかが欠けている医師は、チームによる手術を行う外科医には向いていないと判断できます。その場合、手術とは無縁の領域に進むか、ひとりでもできる開業医になるしかありません。患者さんの命を預かるわけですから、妥協は許されないのです。