人気医師の和田秀樹がズバリ教える「老化を遅らせる生活」
三浦雄一郎と日野原重明の好物は?
年をとれば、だれしも若いころより意欲が低下する。決して性格ややる気の問題ではなく、生活改善を“名目”とした粗食の影響があるというわけだ。コレステロールの低下は、別の点でも意欲ややる気を奪う方向に働くという。
「先ほど触れたようにコレステロールは性ホルモンの材料になるため、血中のコレステロールが少ないと、男性ホルモンも少なくなるのです。その中でテストステロンは性機能だけでなく、意欲にも密接に関係。その分泌が減ると、周りへの関心や集中力を失い、活動意欲が低下するため、元気もやる気もない老人になってしまうのです」
男性ホルモンの分泌を守るためにも、肉を食べてコレステロール値をある程度キープすることが大切なのだ。プロスキーヤーで登山家の三浦雄一郎さんは80歳を越えても500グラムのステーキを平らげ、105歳の長寿を全うした聖路加国際病院名誉院長の日野原重明さんも週2回は肉を食べていたという。
「老化を遅らせるには、さまざまな要素が必要ですが、その中でも特に重要なことは意欲だと思います。意欲があれば、いろいろなことができますから。意欲を持ち続けるのに不可欠なのが、3つあります。脳の中では前頭葉で、ほかの2つはセロトニンと性ホルモンです」
■散歩は毎日6000歩を
後者の2つを維持するために肉を食べることを習慣にした方がいいことは説明の通り。もうひとつの要素、前頭葉を守るには?
「精神活動の中枢である前頭葉は、新しいことが好きで、同じことを繰り返すと衰えていきます。その予防に私は、週2回の“初体験”を義務化。たとえば、ランチの弁当を新しい店で買ってみたり、歩いたことがない道を散歩したり。庭いじりが趣味なら、育てたことのない草花や野菜を植えるのもいい。そんな“小さな初体験”で十分で、とにかく“初体験”を続けること。もうひとつは、毎日の散歩です。適度な有酸素運動によって、前頭葉の萎縮が食い止められることが報告されています」
国立長寿医療研究センターは50歳以上の男性381人を対象に1日の歩数と前頭葉の萎縮について調査。その結果、最も多く歩くグループは、最も少ないグループに比べて萎縮のリスクは4分の1にとどまった。女性は歩数との関係が認められず、1日の総エネルギー消費量が多いほど低リスクだった。2つの結果から、男性は毎日6000歩、女性はエネルギー消費に必要な筋肉量の維持を推奨している。筋肉の維持に必要なのは、やっぱり肉だ。
電車やバスなど公共交通網が備わっている都市部はともかく、地方では車が生活の足になっている。ところが、高齢者の交通事故が相次いでいることから、高齢者の免許返納も社会問題だが、返納する前に考えるべきことがあるという。
「免許を返納して外出が制限されると、高齢者は買い物にも病院にも行けなくなります。もちろん必要なケースは、家族の運転で出かけるのでしょうが、そうでなければ確実に外出の回数が減る。その結果、足腰が弱まって、認知症のリスクが高くなるのです。ですから、まずは衝突防止装置やペダル踏み間違い防止装置など最新の安全装備がある車への買い替えをお勧めします。少なくとも60代は10年後、15年後の免許返納を心配するより、買い替え資金を心配する方がよっぽど賢明です」
警察庁の調査によると、昨年の75歳以上の死亡事故件数は、前の年より13件増えて346件。しかし、10年前よりは83件減っていて、全体としては減少傾向だ。
その原因を75歳以上と74歳以下で分けて調べると、特徴的なことが浮き彫りになる。74歳以下は車両や歩行者の見落としなど「安全不確認」がトップで、居眠りや考え事などの「内在的前方不注意」が続く。75歳以上で最も多い「操作不適」は4番目だ。