柳沢先生!教えて!睡眠で知りたいこと全部聞いた(後編)「寝酒をするくらいなら睡眠薬を」
圧倒的に多いのは悪い夢。その理由は?
──オレキシン受容体拮抗薬は悪夢を見る副作用がありませんか?
ええ、最初は夢を見ます。なぜかというと、オレキシン受容体拮抗薬は夢を見るレム睡眠を増やすからです。逆にマイスリーの類いは薬理学的にレム睡眠を減らす効果があります。レム睡眠というのは睡眠の中にありながら大脳皮質が活動状態になっている。だからといって、レム睡眠が浅い睡眠というわけではなく、レム睡眠も睡眠としては深いのですが、大脳皮質が動いているので、それが夢になる。一方、マイスリーの類いは脳全体を抑えつけて抑制する薬なのでレム睡眠は減るのです。
──レム睡眠で悪い夢を見ても、深く眠れているわけですか?
ここ5年くらいですけど、レム睡眠がものすごく大事だということが分かってきました。怖い疫学結果も出てきて、レム睡眠が少ない人は寿命が縮まるんですよ。認知症のリスクが上がるという論文も出始めています。レム睡眠は減らしてはいけないのです。だからその意味でもオレキシン受容体拮抗薬はレム睡眠を増やすので、良い薬です。夢見が多くなるって言いましたけど、夢を見ること自体悪いことではありません。たとえそれが悪い夢であっても。
──悪夢は悪いことではない?
そもそも、「どんな夢を見ましたか」と聞くと7、8割は悪い夢なんです。ポジティブな夢は少ない。なぜ夢を見るのかについては、諸説あります。私が説得力があると思っている仮説は昼間遭遇するようなストレスフルなシチュエーションを睡眠の中で予行演習しているという仮説です。実際レム睡眠が多い方がストレス耐性が上がるという実験結果や論文もあります。ですから、レム睡眠で悪夢を見るのは悪いことではない。レム睡眠中は脳の中の感情に関与する神経回路が非常に活発に働くので、感情的になるのです。その感情の揺れみたいなものがストレス耐性を高めるという学説があって、説得力があると思っています。
──基本的に睡眠薬は飲まないに越したことはないんですか?
そんなにこだわる必要はありません。睡眠薬は害薬だと思っている日本人が多いのですが、睡眠薬の代わりに寝酒を飲む方がはるかに悪い。寝酒をするくらいなら睡眠薬を飲んだ方がいい。
──なぜ、寝酒はダメなんですか?
アルコールにはまさにマイスリーと同じ類いで、不安を和らげる脳内物質の活動を促進する作用があって、脳全体を鎮静する作用がある。酒をある程度以上飲むと眠くなるのはそのためです。だけど、寝入った後の睡眠の質はガタガタなんですね。なぜかというとアルコールはアセトアルデヒドになって、やがて酢酸になります。このアセトアルデヒドは交感神経を活発化させ、むしろ覚醒に働く。だから心臓もドキドキするし、寝入っても睡眠の質が悪くなる。深酒すると数時間で起きちゃうでしょ。で、もう一回眠れなかったりする。それはアセトアルデヒドのせいです。