発達障害が認知症と誤診されやすいのはなぜか…その特徴とは?
一方で、患者さんのお子さんの状況から、親の発達障害が発見される場合もあります。認知症の疑いで要介護認定を受けていた80代後半の母親は「福祉のお世話になりたくない」とかたくなに施設への通所を拒否し、同居する無職の息子さんが自宅で介護をしていました。訪問診療の際、息子さんになぜ働かないのかと理由を聞くと、上司から「融通が利かず他人のミスを問い詰める」と指摘されたためだと言います。これは「こだわり」や「正義感」といったASDの特徴で、母親がかたくなに介護抵抗を示しているのもASDの特徴の一つの正義感の強さから来ていると考えられ、診断することができました。
先述の熊本大学の研究では、認知症と誤診された発達障害の人のうち約半数は、発達障害の治療を行ったことで症状が改善したといいます。発達障害の方が誤って認知症の治療薬を服用したところで症状は改善しない上に、薬による副作用のリスクもある。
認知症と発達障害はそれぞれに専門医がいて、同時に診察できる医師が限られているのが現状です。誤診を防ぐためにも物忘れを引き起こす病気は認知症だけではないことを知っておく必要があるのです。
▽河野和彦(こうの・かずひこ)1982年近畿大学医学部卒業。名古屋第二赤十字病院、名古屋大学大学院、JA愛知厚生連海南病院老年科部長、共和会共和病院老年科部長を経て、2009年現在の名古屋フォレストクリニックを開院。