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新井平伊順天堂大学医学部名誉教授

1984年、順天堂大学大学院医学研究科修了。東京都精神医学総合研究所精神薬理部門主任研究員、順天堂大学医学部講師、順天堂大学大学院医学研究科精神・行動科学教授を経て、2019年からアルツクリニック東京院長。順天堂大学医学部名誉教授。アルツハイマー病の基礎と研究を中心とした老年精神医学が専門。日本老年精神医学会前理事長。1999年、当時日本で唯一の「若年性アルツハイマー病専門外来」を開設。2019年、世界に先駆けてアミロイドPET検査を含む「健脳ドック」を導入した。著書に「脳寿命を延ばす 認知症にならない18の方法」(文春新書)など。

片付けで実家へ…「処分しよう」「捨てないで!」の親子ゲンカに

公開日: 更新日:

 千葉県の実家で70代の母親が1人暮らしをしているという40代男性(東京在住)。同僚が「親が急に施設に入ることになって実家を売ることになった。そのための片付けが本当に大変」という話を聞いて、他人事ではないと思いました。幸いなことに、自宅と実家はそう遠くない。週末は実家に帰り、少しずつ不要なものを整理していこうと決めました。

 ところが男性のお母さん、「物を取っておきたい性格」。数年前に亡くなった父親(お母さんにとっての夫)の洋服も押し入れの洋服ケースにしまったまま。「もう誰も着ないんだし、処分しよう」と言うと、「お父さんの洋服を捨てるなんて!」と怒り出す。男性の学生時代の制服、表彰状、教科書などについてもしかり。片付けが一向に進みません。それどころか、帰省するたびにケンカになり、「もう、あんたは帰ってこなくていい」と言われる始末でした。

 男性の奥さんから「思い出が詰まったものは捨てられない。あなたにとっては不要でも、お義母さんにとっては大切なもの」と諭されたものの、目の前にすると「置いてたって意味がない」と母親に言ってしまう。見かねた奥さんが、代わりに実家に行くことになりました。

 奥さんが実家から戻ってきた晩、男性はどんな様子だったかを聞きました。奥さんによれば、心掛けたのは3つ。「処分」「捨てる」「不要」といったマイナスの言葉を自分からは使わない。「物」にまつわるお義母さんの思い出話にゆっくりと耳を傾ける。最終的にどうしたいかは、お義母さんの判断に委ねる。

 例えば男性の学生時代の教科書や表彰状。お義母さんと一緒に一つ一つ手に取って見返しながら、男性がどんな子供だったのか、いろいろと聞いたそうです。笑ったり、ちょっと涙したりした後、「いつまでも取っておいても仕方ない。表彰状だけスマホで写真に撮って、あとは処分するわ」とお義母さん。

 これ以降、男性も奥さんを見習うようにしたとのこと。「急ぐことはない」と腹をくくったら、以前はイライラしながらの片付けだったのが、とても和やかな空気に変わり、実家へ行くのが楽しみになったと話していました。

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