長寿研究のいまを知る(13)ダイレクトリプログラミング研究を一変させた転写因子カクテル
転写は、細胞がタンパク質を作るための重要なステップであり、ここでの転写制御が崩れると、細胞は異常な分化を起こしてがんや奇形を生じることがある。転写制御の中心にあるのが「転写因子」と呼ばれるタンパク質で、特定のDNA配列に結合して遺伝情報の転写を調整し、細胞の働きを制御する。iPS細胞の作製に使われる4つの因子もすべて転写因子であり、分化した細胞を未分化の幹細胞に戻す役割を果たしている。
■神経細胞や心筋細胞の誘導も実現
「ダイレクトリプログラミング」の歴史は古く、1987年にはマウスの線維芽細胞にMyoDと呼ばれる1種類の転写因子を導入すると骨格筋細胞に転換されることが報告され、これが世界初のダイレクトリプログラミングとされている。しかし、その後しばらくは単独の転写因子で細胞の運命を変えることが難しく、研究は停滞していた。
それを変えたのが2006年に京都大学の山中伸弥教授が行った研究だ。
山中教授のグループは、ES細胞に発現する4つの転写因子(Oct4、Sox2、Klf4、c-Myc)をマウス由来の体細胞に導入して、iPS細胞の生成に成功し、その後の細胞種変換研究が一気に進展した。