長寿研究のいまを知る(13)ダイレクトリプログラミング研究を一変させた転写因子カクテル
08年には膵臓の外分泌細胞からインスリンを産生する細胞や線維芽細胞からマクロファージ様細胞への誘導が成功し、10年には神経細胞や心筋細胞の誘導が実現した。
同じ年には、筑波大学の研究チームがGata4、Mef2c、Tbx5(GMT)という3つの因子を使って、線維芽細胞から拍動する心筋細胞を、世界で初めて誘導することに成功している。
ハーバード大学医学部&ソルボンヌ大学医学部客員教授の根来秀行医師が言う。
「心臓病は日本における死因の第2位です。心臓の心筋細胞は増殖しないため、心筋梗塞や心不全などで壊死した部分は心筋線維芽細胞に置き換えられ、収縮機能が失われてしまいます。そのため、ES細胞やiPS細胞から作られた心筋細胞を使った再生医療が期待されていましたが、コストが高額であることや、未分化細胞の混入による腫瘍形成リスク、さらに生着率の悪さといった課題もあります。こうした背景から、ダイレクトリプログラミングが新たな治療法として注目されているのです」