あふれる冷や酒で甘くなった舌をマティーニで締める
さて次は日本酒で甘くなった舌を引き締めることにしよう。線路沿いにあるスナックビルを横目に人通りの少ないエリアへ抜けると、2階にオーセンティックバーの名店「テンダリー」がある。
上を見上げると大きな窓からずらりと並んだ洋酒のボトルと、店主・宮崎優子さんが店内を睥睨(へいげい)している姿が目に入る。窓際のカウンターには幸い、まだ誰も座っていないようだ。その席に案内されることを期待して狭い階段を上がっていく。「お待ちしてました!」。この店の第一声は「いらっしゃいませ」ではない。こんなアタシを待っていてくれたのか。そんな気にさせるもてなしの言葉を受けて窓際のカウンターへ。春になると、店の前の公園の桜を窓一面に見ることができる。この席での花見酒は何にも代えがたい。
宮崎さんは女性では初めてのバーテンダーズ機構チェアマン。が、偉そうなそぶりはみじんもなく、優しい笑顔と流麗な手さばきで絶品カクテルを作ってくれる。早速カクテルの王様マティーニをオーダー(1700円)。強いカクテルは苦手という方には、20種類以上あるオリジナルカクテルがおすすめ。中にはカクテルコンテストで優勝した逸品も。そんなカクテルを求めて毎夜老若男女で満員御礼。アラ還世代のアタシらがシングルモルトをなめている横で、バー初心者の若者もカクテルを楽しんでいる。
ただし、居酒屋チェーンのノリで騒いでいると宮崎さんに一喝されるぞ。チェアマンはお行儀にはうるさい。「いつも、どこで飲んでらっしゃるんですか? 毎回毎回、お久しぶりって言ってる気がします」なんて、アタシみたいに冗談半分の嫌みを言われたくて来る客もいるけどね。(藤井優)
○大衆酒場 富士川 大田区大森北1-9-8
○テンダリー 大田区大森北1-33-11 大森北パークビル2階