中高年の筋トレ「脳も元気になる」適度な方法とは…プロレスのドクター40年以上の医師が説く
大きな筋肉を刺激してマイオカインを分泌
筋肉には、①体を支えて動かす②脂肪や糖をエネルギー源として体温を生み出す③血液を心臓に戻す④ホルモンを分泌する、という働きがある。最近、注目されているのが④のホルモン分泌で、100種類以上のホルモンを総称して「マイオカイン」と呼ばれる。
たとえば、そのひとつである「イリシン」は血流に乗って脳に運ばれると神経細胞を活性化。別の「SPARC」は大腸がんを抑制すると考えられている。ほかには、脂肪の消費を促進したり、糖尿病や高血圧を予防したり……。筋肉が分泌するマイオカインは、いろいろな病気を改善する可能性を秘めていて、前述した東北大研究のプラス面を後押しする。
実は、マイオカインの分泌を考えると、脚の筋肉を鍛えるスクワットは意味があるのだ。体の筋肉を大きさで分けると、最も大きいのは太ももの大腿四頭筋。それに続く尻の大殿筋や肩を覆う三角筋の2倍を超える。マイオカインを効率よく安定的に分泌するには、大きな筋肉を鍛えるのが手っ取り早い。ダントツの大きさを誇る大腿四頭筋を刺激するスクワットは理にかなっているのである。
さらに4位と5位は、それぞれ太ももの裏のハムストリングスと胸の大胸筋。トップ5までの筋肉は、脚や肩に関係する筋肉が並ぶ。中高年が毎日の生活の充実を期待して行う筋トレとしては、富家氏が行うスクワットと腕立て伏せは申し分ない組み合わせだ。
「筋肉は使わないとあっという間に衰えますが、筋トレを適度に行えば80歳でも90歳でも筋肉量を増やすことができます。そのままのスクワットがきつければ、イスや柱などを支えにしても構いません。とにかく無理のない範囲で続けることが大切です。『無理のない範囲』とは、①ゆっくり行う②呼吸を止めないことで、③鍛える筋肉を意識すると、それほど強い負荷でなくても効率よく鍛えることができます」
スクワットなら、「太ももに効いている」と思いながら腰を落とし、腕立て伏せなら腕や胸を意識するイメージだ。マイオカインは、筋肉が収縮したとき(力を入れたとき)に分泌されることが分かっている。効いている筋肉を意識することは運動効果を上げるだけでなく、マイオカインの分泌にとっても重要だ。
米国の小中学生95万人を対象に心肺能力や筋力などの身体テストと学力テストの結果を調べたところ、文章の読解力と数学の点数は身体テストの点数が高いほど優秀だった。
この研究ではまた、運動によって脳細胞が増加すること、さらに運動後は脳への血流が増えて脳細胞が活性化して思考力や集中力が高まることも分かっている。
「適度な筋トレは、中高年の脳を守ることにも役立ちます。疲れがある、関節や腱などが痛い、というときは筋トレを休んだり、負荷を下げてみたり。中高年の筋トレは、体の声に耳を傾けることが一番です」
さあ、できることから始めよう。