中高年の筋トレ「脳も元気になる」適度な方法とは…プロレスのドクター40年以上の医師が説く
芸能活動自粛に追い込まれた松本人志(60)は、筋トレが日課で冬でもコートの下はTシャツ一枚のことが多いらしい。昨年末、週刊文春の直撃を受けたときも、「自慢の大胸筋をアピールするためなのか、コートの前は大きくはだけている」と報じられた。松本を巡る疑惑は裁判の行方を見守るとして、筋肉に罪はない。時は、空前の筋トレブーム。本当に筋肉はすべてを解決してくれるのだろうか?
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「筋肉は裏切らない」
順天堂大先任准教授の谷本道哉氏は、NHK「みんなで筋肉体操」で視聴者に向けてこう言った。「鍛えれば鍛えるだけ筋力も自信もつくから、筋トレして強くなろう!」といった意味で、「筋肉はすべてを解決する」の類義語とされる。
「みんなで筋肉体操」が初めて放映されたのは2018年。笹川スポーツ財団の調査によると、1年に1回以上筋トレをする20歳以上の男性は、22年は対18年比で1.6ポイント増の18.9%。女性の減少に引っ張られる形で男女全体では微減だが、それでも00年と比べると男性は1.8倍、女性は3倍近く増えている。
これを年代別でみると、50代以上の伸びが特に目立つ。50代の筋トレ実施率は00年に比べて3.4倍の16.8%、60代は同4.6倍の13.3%、そして70代は同7.6倍の10.7%。
■1週間に60分で心血管病のリスク18%低下
現在60歳の松本は昨春、筋トレをやり過ぎてドクターストップを受けたことをバラエティー番組で語り、話題を呼んだ。行き過ぎた“筋トレ愛”もうかがわせるエピソードだが、過ぎたるは及ばざるがごとし、ともいわれる。それを裏づけるのが東北大大学院医学系研究科運動学分野の門間陽樹講師が行った研究だ。
これまでに行われた筋トレや病気、死亡との関連を検討した国内外の研究1252本を集計。その中から信頼性の高い16本を抽出して筋トレ時間と病気や死亡リスクについて分析した。
その結果、1週間に約60分の筋トレで心血管病のリスクは18%、同40分の筋トレで死亡リスクは17%、同30分の筋トレで発がんリスクは9%、それぞれ低下した。糖尿病のリスクは、筋トレ時間が長くなるほど低下したという。
一方、筋トレ時間が1週間に130~140分を超えると、糖尿病以外の心血管病と発がんリスクは上昇。死亡リスクも高まることが判明し、逆効果の可能性が浮き彫りになった。
「『筋肉は裏切らない』を成立させるには、正しく筋トレを続けることが大切です。『正しく』には、正しい筋トレのやり方だけでなく、『正しく休む』ことも含まれています。特に中高年は、無理のない範囲で筋トレを続けることがとても重要です」
こう言うのは、医師で医療ジャーナリストの富家孝氏だ。新日本プロレスのリングドクターを40年以上務めたほか、母校東京慈恵医大の相撲部総監督だったこともある。内科を専門とする一方、筋肉と病気の関係にも詳しい。では、中高年にとって正しい筋トレとは、どういうことか。富家氏に聞いた。
盛り上がった胸筋や6つに割れた腹筋は、筋トレを続ける人の理想形のひとつかもしれないが、中高年がそこを求めるのは目標が高過ぎて、かえって体を痛める恐れがあるという。
インターネット調査を行うナビットは昨年3月、男女1000人を対象に筋トレ事情について調査。その結果、筋トレをしているのは28.5%。筋トレの頻度は、「毎日」6.3%、「週に数回」13.9%、「月に数回」6.5%だった。
「東北大の研究からも明らかなように、中高年が筋トレを行う回数は週に数回で十分です。私も、スクワットと腕立て伏せをそれぞれ20回を目安にしていますが、『きょうは腕がだるい』『脚が疲れているな』というときは休んだり、回数を減らしたりしています」
では、体のどの部位を鍛えればいいか。ナビットは複数回答で筋トレを行う部位も質問した。それによれば、「お腹」が15.6%でトップ。多くの人がたるんだ腹回りをへこませることに努力しているようだ。以下、「脚」13.4%、「腕」8.6%、「背中」6.2%と続き、松ちゃんも白Tでアピールする「胸」は意外と少なく5.2%だった。
「中高年の場合、鍛えるべきは何といっても脚です。ヒトが衰えるのは脚からで、脚の筋力が減少すると、立ったり歩いたりという生活に欠かせない動きがおっくうになります。私が腕立て伏せを行いつつ、スクワットを重要視するのはそのためです。その2種目でせいぜい5分程度ですから、毎日続けても35分。東北大の研究が示唆するやり過ぎ状態には、ずいぶん余裕があります」