胃は秋田、肝臓は佐賀…「がんの県民性」傾向と対策のコツ
東北の日本海側は胃のケアでピロリ除菌を
胃がんもエリアによって注意すべきがんのひとつだそうだ。
「胃がんの年齢調整死亡率を見ると、秋田を中心とした東北の日本海側に多い。日本海側は雪深いため、食品の長期保存の知恵として塩蔵品が強く根づいています。その影響も要因のひとつです」
胃がんについては、原因の98%がピロリ菌であることが判明している。マウスの実験ながら、興味深い研究結果があるという。
「ピロリ菌陽性のマウスで胃がん発症率と食事の塩分濃度を比べると、塩分濃度が高いほど、胃がんの発症率は高くなります。一方、ピロリ菌に感染していないマウスではそもそも胃がんの発生がほとんどありませんでした。つまり、胃がんの発生は、ピロリ菌の感染がベースで、そこに過剰な塩分摂取が重なることが影響していることが分かります」
秋田の郷土料理でおなじみのいぶりがっこやしょっつる、ハタハタ寿司などは塩を多用する。胃がんとの関係においては塩の摂取方法も影響するそうだ。
「みそ汁やスープなどに含まれる塩分は、比較的濃度が薄いので胃がんへの影響が少ない。一方、いぶりがっこやハタハタ寿司など塩漬けによる高い塩分濃度の食品ほど高リスクです」
その点では、塩辛や干物なども高リスクだ。そこから対策も浮かび上がる。
「まず第一にやるべきはピロリ菌感染の有無を調べて、陽性ならすぐに除菌をすること。その上で減塩ですが、すべての食事やメニューから少しずつ塩分を減らすより、とにかく塩蔵品はじめ塩分濃度が高いものを減らすことが重要です」
ピロリ菌を除菌することで、その後の影響はゼロにできるが、それまでの履歴を消すことはできない。除菌はなるべく早いうちにする方がベターだ。
■肝臓のワースト記録を克服した佐賀の試み
さらに肝臓がんは東シナ海周辺に多く、日本では佐賀県が2017年まで19年連続で死亡率ワーストを継続していた。肝臓がんというと、飲酒の影響をイメージして、酒豪が多い九州との関係をイメージするかもしれないが、そうではないという。
「肝臓がんの原因は、9割がB型とC型の肝炎ウイルスの感染です。持続的な感染の影響で肝炎が慢性化し、やがて肝硬変を起こし、ひいては肝臓がんになります。東シナ海周辺には、C型の肝炎ウイルスが広がっているため、佐賀県に感染者が多く、死亡率が高止まりしていたのです」
肝臓がんは、肝炎ウイルスへの感染が圧倒的。そうすると、ウイルスを駆除すれば、肝臓がんへの流れを断ち切ることができる。
「残念ながら7割は肝炎ウイルスの検査を受けたことがありません。検査は採血で済むので、気になる人は積極的に受けるべきです。それで、肝炎ウイルスが陽性なら、B型もC型も飲み薬で駆除することができます」
不名誉なワースト記録を続けた佐賀県では、肝臓がんの啓発イベントで予防意識を根づかせ、肝炎ウイルス検査の未受検者を減らすことに努め、汚名返上を達成した。国立がん研究センターが発表した10年生存率は、すべてのがんで54%だが、肝臓がんはわずか23%。厄介ながんのひとつだけに肝炎ウイルス検査によって肝炎治療に結びつけ、肝臓がんを食い止める効果は大きい。
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こうしてみると、がんにも県民性が反映されていることがうかがえる。佐賀の肝臓がん対策のように、エリアに応じた対策を立てることも重要だろう。