女性外来設立のパイオニアは今も現役「体力、筋力、健康維持には一に運動、二に運動です」

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■東大医学部卒業後、思い切ってアメリカへ

 天野さんは愛媛県生まれ。医師を目指したのは7歳の時。裏の家に住む1歳年下の女の子のおばあさんが突然死したことから「皆が死なないようにしたい」という願いで、以降、一度も医師になる夢はブレなかった。

 1967年に東京大学医学部卒業。当時の東大医学部の女性の割合は前後の学年では1~3人だったが、天野さんの時は100人のうち10人と多かった。この頃、医学部紛争が起こり、国家試験合格後も東大病院に戻れなかったため、天野さんは思い切ってアメリカに渡る。結婚してカナダのケベックに行き、71年に帰国し、長女と次女を出産。長女が2歳、次女が1歳の時に東大病院第2内科医局員に。37歳の時に三女を出産。41歳まで無給の医局員として働いた。

「週1日半の関連病院でのアルバイト代の収入はすべて50代の家政婦さんへの支払いに充てました。PTA参観や運動会に私の代わりに参加してもらいましたね」

 医師として働きながらの子育ては限界があった。家政婦さんのサポートもあり、天野さんは医師としての人生を貫いていく。

■壮絶な更年期障害との闘い

 転機は80年代前半だった。「胸に圧迫されるような痛みが起こる」という狭心症の症状を訴える更年期前後の女性患者が増え、それが女性特有の狭心症である「微小血管狭心症」とわかったことから、性差医学に取り組む。

 それを後押ししたのは、自身の壮絶な更年期障害との闘いだった。

「92年1月、49歳の時に子宮筋腫が見つかり、子宮と両方の卵巣を摘出しました。当時、卵巣がんがはやっていたので予防のつもりで摘出したのですが、それが原因でひどい更年期症状を経験することになりましたね」

 摘出してから6カ月後、足の裏は象の皮膚のように分厚く硬くなり、頬はたるんだ。ホルモン補充療法で皮膚の症状は回復したが、その後、強いのぼせやほてり、異常発汗、さらには下半身のひどいしびれに加え、関節の痛みや強い冷えを感じ、電気ストーブに近づき過ぎてズボンが焦げても気が付かないほどだった。

 一番ひどいのがブレーンフォグという記憶や集中力の低下で論文がひとつも書けなくなった。そのため自ら東大病院を去ることを決めたという。

 59歳で霧が晴れるように更年期症状がなくなるまでの間、文献を読み漁り、さまざまな診療科で診察してもらい、漢方、気功、はり、きゅうと片っ端から試しても一向に効きそうにもなかった。

「私の更年期障害がひとつの契機となり、『性差医療』への関心が高まりましたね」

 40歳を越えると女性の病気のリスクが高まっていく。女性の体を守っているエストロゲンという女性ホルモンが減少し、閉経とともにさらに激減するため、閉経は第二の人生と天野さんは言う。

「エストロゲンには高血圧、高血糖、高コレステロールを抑え、動脈硬化の進行を予防する働きで脳梗塞や心疾患を予防し、骨量を保つ作用があります。閉経後は病気予防に気を付けながら、セルフケアをすることが大事ですよ」

■65歳で記憶力低下、75歳で体重減と免疫低下

 セルフケアは、前述の天野さんの健康法を参考にするとよいだろう。

 また男性が女性の体の変化を理解することで、妻をいたわる気持ちも生じ、夫婦円満にもつながる。

「65歳で記憶力・記銘力の低下、75歳で突然の体重減少(半年で6キロ減少)と虫垂炎に3回なるという体力・免疫の低下がありました。老化の節目です。75歳の時にがん検診センターで検査すると血糖値・血圧が高く、そこで3カ月野菜スープを続け、血圧は正常値に戻しました」

 80歳では薬に対する肝臓の代謝が衰え(漢方薬の副作用で血圧が上昇)、関節や筋肉が硬くなった。就寝後に痰が出るなどの症状が出て、副鼻腔性気管支症候群と診断された。早期発見のためすぐに対処できたという。

「医者として自分の体を観察しながら、老化テーマでまた出版したいです」

 老化したらどうなるかというテーマに取り組むのも、実に医者らしい。

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