<第6回>五輪SP本番直前にかけた母への電話で光が見えた
少しずつ暗闇から光が見えた気がしました。
私は五輪本番が近づくにつれ、いつの間にか欲をかき、「完璧」を求めていました。足が痛くてもひとつのミスもしてはいけない。五輪でパーフェクトな演技をしなければ周囲は納得してくれない。そう自分自身を追い込み、本来の姿を見失っていた。
母の言葉を聞いて、ふと我に返りました。
「ジャンプでミスをしてもいい。転んでもいい。今さら足の痛みが劇的に回復するわけでもない。今の状態でできることをやればいい」
体の奥底から徐々に前向きな気持ちが生まれてきました。
母とは30分ぐらい話したでしょうか。吹っ切れた私は、数十分前には考えられない力と勇気、希望がみなぎり始めていた。
「ありがとう。頑張ってくるね」
最後にそう言って電話を切った時には「よし、やってみよう! いや、やれる!」。確信しました。
迎えた本番。自分の今できるスケートを皆さんに見てもらいたい一心で滑ると、激痛に耐えられなかった両足は想像以上に動きました。