江夏豊氏が若手の気質と練習に苦言「今のキャンプ手ぬるい」

公開日: 更新日:

「キャッチボールが一番」の真意

 プロ野球が開幕した。阪神のエースとして「ONコンビ」全盛期の巨人に真っ向勝負を挑み、68年には年間401奪三振、71年球宴では9連続奪三振を達成した江夏豊さん(66)。40年以上たっても記録は生きており、広島時代の79年日本シリーズで見せた「江夏の21球」は語り草になっている。今春キャンプ、伝説の左腕が臨時コーチとして40年ぶりに阪神に復帰。コーチとして親子以上に年が離れた若い世代に何を伝えようとしたのか。今のプロ野球に何を思うのか。

――臨時コーチとして選手に一番伝えたかったことは何ですか?

 たった8日間で技術的なことを言うのは無責任だし、選手とすれば迷惑。僕が一番大事にしてきたものをわかってもらいたいと考えた。それがキャッチボール。ボールを正しく握って正しい回転で投げる。今の若い子たちはキャッチボールが単なるウオーミングアップという考えで、野手のような雑な投げ方をしている投手もいる。キャッチボールの延長にブルペン、マウンドがある。相手のボールを受け取って、グラブにポンと入った時に何を考えているか。機嫌がいいか悪いかわかるくらいでないと。ボールを投げるということは、捕手や審判に対して自分を主張し、自分をさらけ出すということ。僕が阪神に入団した時、村山実さんが時間をかけて丹念にキャッチボールをやっていた。年数を積んでその意味がわかった。せめて阪神の投手だけは大事にしようぜと。

――キャッチボールを教えると言って選手は拍子抜けしませんでしたか?

 一軍投手の18人中、17人はわかってくれたと思う。1人だけわからなかった投手がいたかな。

――それは誰ですか?

 藤浪(晋太郎)。あの子はいい意味で自分を持っている。高校時代に春夏甲子園で連覇した自信も持っている。ただ、聞く耳を持たない。キャッチボールはやるけど、あくまで自己流。いずれわかってくれると思っているから必要以上に言わず、好きなようにやらせました。

――あくまで自分を貫きたいと。

 彼は高校の時からカットボールやツーシームを投げていた。去年のキャンプで評論家として彼と話した時、「いろんなボールがあるのは素晴らしいことかもしれんけど、1点差の2死満塁、2ストライク3ボールになったら何を投げるの?」と聞いた。すると一瞬、間があり、返ってきた答えが「その日の一番いいボールを投げます」と。自分のこれという得意球がないのかなと思った。あらゆるボールに対する反応は持っているけど、実際に困った時に使うボールを本人がわかっていない。僕は真っすぐとカーブしかない。バカの一つ覚えで困ったらアウトローという投手。藤浪は器用の最高峰で僕は不器用の最高峰。だから対話してもなかなか噛み合わない。

――練習について感じたことはありますか?

 今のキャンプは手ぬるいね。球団が暖かい土地で宿も食事も用意してくれる。入団1年目から高級ホテルの広い部屋を与えてもらえる。僕らの頃は旅館で、主力は2人部屋だけど、若手は大部屋。今の子は、練習が終わったら人目を気にせずに自分の世界にいられるものね。自分の頃から見たら贅沢な環境ですよ。これを利用しない手はないのに、今の若い子たちはこれが当たり前で、練習をやらされているという印象でした。

――確かに環境面は格段に良くなりました。

 食事も僕らの頃は1日おきに鍋。宿も手がかからないしね。肉は初めだけしかなくて、あとは野菜。それもなくなったら、ご飯つぶを食うとけと(笑い)。今は和洋折衷の食べ放題。それで山ほど余ってる。ほとんど食べないで、コンビニでおやつを買って部屋でテレビゲームしながら食ってるんだから。でも、それをダメと言うと反感を買う(苦笑)。

――練習量も変わりましたか?

 僕らは、休日前は限界まで体を痛めつけて鍛えた。野手なら朝から転げ回ってユニホームは上から下まで真っ黒け。今は練習後もきれいなもの。変わったことやってるなあと思ったのは、阪神の練習は練習場だけ。昔は練習後は宿舎で個別に素振りやシャドーピッチングをやった。チームの方針として、体力があるならグラウンドで使い切れと。グラウンドでクタクタになってすぐ寝られたらいいけど、風呂に入って飯を食ったらまた元気が出るのにね。時間がタップリあるキャンプでやらなかったら、いつやるの?

――ブルペンの球数も少なくなりました。

 完投したら、最低でも120~130球は投げる。それくらい生きた球を放るには、ブルペンでその倍は投げないと。今は100球で終わり。投手に「キャンプ中に何球投げる?」と聞いたら、「だいたい1000~1200球です」と。「それで肩が出来上がるの?」と聞くと、「あとは筋トレでつくる」と。首脳陣に「筋トレは補助としてはいいけれど、野球選手というのは、投手は投げて、打者はバットを振って筋力をつけるんじゃないの?」と言ったら、「考え方が古い」と返される。時代の流れだね。

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • 野球のアクセスランキング

  1. 1

    ロッテ佐々木朗希「強硬姿勢」から一転…契約合意の全真相 球団があえて泥を被った本当の理由

  2. 2

    ロッテ佐々木朗希の「豹変」…記者会見で“釈明”も5年前からくすぶっていた強硬メジャー挑戦の不穏

  3. 3

    佐々木朗希の今季終了後の「メジャー挑戦」に現実味…海を渡る条件、ロッテ側のスタンスは

  4. 4

    なぜ大谷はチャンスに滅法弱くなったのか? 本人は力み否定も、得点圏での「悪癖」とは

  5. 5

    陰で糸引く「黒幕」に佐々木朗希が壊される…育成段階でのメジャー挑戦が招く破滅的結末

  1. 6

    セクハラだけじゃない!前監督が覚悟の実名告発…法大野球部元部長、副部長による“恫喝パワハラ”激白180分

  2. 7

    仁義なき「高校野球バット戦争」…メーカー同士で壮絶な密告合戦、足の引っ張り合い、広がる疑心暗鬼

  3. 8

    なぜ阪神・岡田監督は大炎上しないのか…パワハラ要素含む「昭和流采配」でも意外すぎる支持

  4. 9

    西武・渡辺監督代行に貧打地獄を直撃!「ここまで打てないほど実力がないとは思ってない」とは言うものの…

  5. 10

    大谷がいちいち「大袈裟に球を避ける」のは理由があった!弱点めぐる相手投手との暗闘の内幕

もっと見る

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    都知事選2位の石丸伸二氏に熱狂する若者たちの姿。学ばないなあ、我々は…

  2. 2

    悠仁さまの筑波大付属高での成績は? 進学塾に寄せられた情報を総合すると…

  3. 3

    キムタクと9年近く交際も破局…通称“かおりん”を直撃すると

  4. 4

    竹内涼真“完全復活”の裏に元カノ吉谷彩子の幸せな新婚生活…「ブラックペアン2」でも存在感

  5. 5

    竹内涼真の“元カノ”が本格復帰 2人をつなぐ大物Pの存在が

  1. 6

    「天皇になられる方。誰かが注意しないと…」の声も出る悠仁さまの近況

  2. 7

    二宮和也&山田涼介「身長活かした演技」大好評…その一方で木村拓哉“サバ読み疑惑”再燃

  3. 8

    渡辺徹さんの死は美談ばかりではなかった…妻・郁恵さんを苦しめた「不倫と牛飲馬食」

  4. 9

    小池都知事が3選早々まさかの「失職」危機…元側近・若狭勝弁護士が指摘する“刑事責任”とは

  5. 10

    岩永洋昭の「純烈」脱退は苛烈スケジュールにあり “不仲”ではないと言い切れる