「宇野ヘディング事件」星野仙一さんがクラブを叩きつけたのはエラーに怒ったわけではない
私が中日に入団した1981年8月26日、世紀のあのプレーに立ち会った。
場所は巨人の本拠地・後楽園球場。中日の先発は星野仙一さんだ。すでに晩年だったが、「巨人戦はテレビに映るから、みっともない試合はできん」と言って、この日も気合が入っていた。新人捕手だった私は、この試合でバッテリーを組んでいた。
星野さんは六回まで巨人打線をわずか2安打無失点に抑えていた。中日2点リードで完封勝利が見えてきた七回2死二塁、巨人は代打・山本功児さんを送ってきた。
しかし、遊撃後方への平凡な飛球。「チェンジだ」と星野さんも私もベンチに戻りかけた。ショートの宇野勝がフラフラしながらも、捕球体勢に入った。安心した瞬間、打球は宇野が出したグラブではなく、額付近を直撃。ボールはポーンと大きく左翼線方向に跳ね返り、そのままフェンス際を転々とした。
頭を押さえてうずくまる宇野を尻目に、レフトの大島康徳さんが慌ててカバーに走ったものの、この間に二塁走者は生還。さらに打者走者の山本さんも三塁を回り本塁へ突入してきた。間一髪アウトで同点までは許さなかったが、星野さんは「チクショー!」と叫び、ホームベース付近にグラブを叩きつけ、そのままベンチに引き揚げてしまった。