世紀の一戦「那須川天心vs武尊」を逃したフジテレビから格闘技中継が消える日
東京ドームは5万6000人超の格闘技ファンで埋め尽くされていた。
19日に開催されたキックボクシング「THE MATCH 2022」。そのメインイベントで那須川天心(23)と武尊(30)が激突。ファン待望の“世紀の一戦”は、天心が5-0の判定で武尊を下した。
試合は1ラウンドから天心が主導権を握った。東京ドームで観戦したノンフィクション作家の細田昌志氏はこういう。
「1ラウンド終了間際のダウンは天心が打って出て武尊がカウンターを合わせに行ったところをさらに左のカウンターで迎撃するという高等テクニック。最初のパンチはハナから“捨てパンチ”なんです。それがドンピシャのタイミングで決まりました。とにかく天心のスピードと臨機応変な対応力に驚きました。2ラウンドのバッティング(頭突き)で流れが変わりかけましたが、その後も武尊は思うように攻めることができなかった。3ラウンドも武尊の“打ち合おうぜ”という誘いには乗らずにバックステップでいなしながら冷静に試合を運ぶ天心のクレバーさが光りました」
フジテレビが逃がした魚は大きい
しかし、返す返すも残念なのは、この一戦はフジテレビが地上波での生放送を中止したため、会場以外ではABEMAのPPV(一般チケット5500円)でしか見ることができなかったということだ。
「フジテレビの放映権料は1億円といわれていましたがこの値段は破格。もし放送していたら視聴率15%以上は確実だったはずですから、それこそ逃した魚は大きい。それでもフジテレビは週刊ポストで報じられた大会実行委員を務める榊原信行氏と反社会勢力の関係を示唆する記事や音声の存在を問題視して中止を決めました。決断理由については株主総会が近いとか新社長就任が控えているとかさまざまな社内事情についての臆測が流れましたが、これでもう今後、フジテレビが格闘技中継に手を出すことはないでしょう。当日の会場にはポストの記事にも出ていた榊原氏と反社会的勢力の接点となっていた人物も顔を見せていたそうですから、切っても切れない関係なのがわかります」(格闘技興行事情に詳しい関係者)
この間、興行の裏事情に振り回された選手が気の毒だし、榊原氏の考えや脇の甘さを指摘する声はもちろんだが、前出の細田氏はこう嘆く。
「地上波での放送がなくなったことで格闘技ファンだけでなく、格闘技を知らない一般視聴者にもその魅力を伝える機会が失われたことが非常に残念です」
熱戦に次ぐ熱戦に沸いた東京ドーム。だが、その熱量の伝播が会場とスマホの中だけだったとしたら寂しい限りである。