守田英正「覚醒の契機」 “森保Jの頭脳”を育てた流通経大・中野雄二監督に聞く
大卒が増えている理由分析すべき
──W杯アジア最終予選で、昨年11月に選出された日本代表28人のうち、大学出身の選手が10人を占めた。最近はJリーグも大卒の活躍が目立つ。
「世界的に珍しい。日本の場合も、大学に来た時点で負け組じゃないですか。18歳の時にいい条件でプロから誘われたら大学には来ない。基本的には、その時はそこまで評価をされていない選手ということですから。伊東純也君もそうですよね(神奈川大出身=ヘンク)。でも、人間として成長できる大学4年間は決して遠回りにはなりません」
──日本サッカー協会で代表強化や今年3月まで選手育成に携わる技術委員を務めた中野監督は常々、日本独自の育成システムとして、大学サッカーの重要性を強調している。
「大学の環境がプロよりいいとは思いませんが、18歳でプロになれなくても、代表に入っていける国はそうはない。成長はみんなバラバラ。大学としては使命感もあります」
──近年はその流れが代表にも及んでいる。
「なぜ大学出身の選手が増えているのか。日々『人としての成長』を求めていることと無関係ではないはずです。うちの大学は現在250人以上の部員が寮生活を送っています。例えば、できる範囲で災害復興支援にも行かせています。15年の関東・東北豪雨で鬼怒川が決壊した時は、毎日100人単位の選手を派遣しました。Jリーグのユースという組織は機能しているのか。サッカーだけをやっていればいいのか。Jの関係者はしっかり受け止めて分析するべきです」
■大谷翔平がサッカーをやっていたら
──Jリーグ組織を見直す必要があると。
「新人選手の年俸の上限が460万円というのは、夢がないので撤廃して欲しい。Jリーグはチーム数が多過ぎてカネが回らないという現象が起きています。J3まで入れれば『58』もある。J3のチームは月給10万円というケースもある。これがプロと言えるでしょうか。日本のプロ野球は12チーム。だから大谷翔平(エンゼルス)やダルビッシュ有(パドレス)は稼げる野球をやる。ヨーロッパでは、ああいうトップアスリートがサッカーをやります。サッカー人口が野球を抜いたと言いますが、私はまだまだ野球とは差があると思っています」
──どうしたらいいのですか?
「W杯で優勝する前にクラブW杯で優勝するチームをつくること。例えば、(名古屋)グランパスさんがトヨタの資金でメッシ(パリ・サンジェルマン)のような大物選手を獲得して世界一のチームをつくる。世界的な富豪をオーナーに呼んでもいい。クラブの価値を高めれば、選手の年俸も上がります。Jリーグが安いから有望な若手がどんどん欧州のクラブに買われてしまう。もっとうまくできるのに商売がヘタ。守田はこんな話を学生時代から聞いているので、海外に目を向けているのでしょう」
──守田に期待することは?
「日本代表はW杯最終予選で厳しいスタートを切りましたが、守田がレギュラーに定着してから快進撃が始まって本大会出場を決められた。先日のキリンカップは故障で不在でしたが、守田がいないと周囲の選手が生かされないことが改めて浮き彫りになりました。W杯で名を上げて、ポルトガルからさらにビッグクラブへ移籍したいと考えているでしょう。私は応援するだけです」
(聞き手=増田和史/日刊ゲンダイ)
▽守田英正(もりた・ひでまさ) 1995年5月10日、大阪府高槻市出身。金光大阪高から流通経大。3年でデンソーカップMVP。4年時に関東大学選抜、ユニバーシアードサッカー日本代表に選出。インカレ優勝。2018年にJ1川崎Fに加入。J1リーグと天皇杯の2冠に貢献した直後の21年1月に、ポルトガル1部サンタクララへ移籍し、主力として活躍。22年7月にスポルティングへの完全移籍が決まった。
▽中野雄二(なかの・ゆうじ) 1962年10月17日、東京都世田谷区出身。古河一高では1年、3年時は主将として全国高校サッカー選手権大会優勝。法大では4年時に監督代行兼主将。卒業後は85年から水戸短大付高(現・水戸啓明高)監督。92年にプリマハム土浦FCの監督としてJFL昇格に導いた。97年に水戸ホーリーホック監督、98年に流通経大監督に就任。現在は同大スポーツ健康科学部教授。全日本大学サッカー連盟副理事長兼技術委員長。関東大学サッカー連盟理事長。日本サッカー協会理事兼天皇杯実施委員会委員長も務める。