著者のコラム一覧
宮城安総工作舎アートディレクター

1964年、宮城県生まれ。東北大学文学部仏文科卒。1990年代から単行本、企業パンフレット、ポスター、CDジャケットなど幅広く手掛ける。

不良品を装う、一点ものの「モノ凄さ」

公開日: 更新日:

「W_ _KW_ _K」テセウス・チャン著

「シンガポール製/本書はハンド・メイドで仕上げを施されており、背表紙に電子部品が埋め込まれ(略)また、ページの不揃いなどはすべて意図されたデザインであり、不良品ではありません」

 部数限定。創刊号は、ファッションブランド「ANREALAGE」を特集。衣装作品が特殊素材からインスピレーションを得ているのと同様、本書自身が多様なテクスチャーを随所にまとい、読者を飽きさせない。

 表紙にはタイトルと特集名。特殊インキでスタンプ押し。印圧により滲み、はみ出し盛り上がった文字が物質感をアピール。本文用紙は「コミック用紙」風。ほぼ全ページにわたるカラー写真は控えめな発色だ。ブラウン管のクローズアップ。走査線特有のストライプが懐かしい。コールタールと見まがう特殊な樹脂で「背固め」された背表紙。(5月の東京の室温でも)手に貼り付く粘性あり。今にも溶けてバラバラになりそうだ。「脆弱さ」の演出とは穿ち過ぎか?

 さて、本書の前衛性は「製本」に最もよく表れている。表裏に16ページずつ刷られた紙を畳んでいけば計32ページの小冊子=「折丁」となるが、ここから企みは始まっている。四隅を「わざわざ正確に」ズラして折ってある。そして実際やってみると分かるが、このままでは「袋とじ」になってしまう。通常、袋部分を「化粧断ち」することで全ページを「開く」ことが出来る。だが、その処理をせずザンバラ状態ということはつまり、一冊ずつ手作業で「袋」を切り開いたということ。少部数ながら膨大な工程。冒頭「注意書き」にある「ハンド・メイド」の凄みを改めて思い知る。

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    僕の理想の指導者は岡田彰布さん…「野村監督になんと言われようと絶対に一軍に上げたる!」

  2. 2

    小泉進次郎氏「コメ大臣」就任で露呈…妻・滝川クリステルの致命的な“同性ウケ”の悪さ

  3. 3

    綱とり大の里の変貌ぶりに周囲もビックリ!歴代最速、所要13場所での横綱昇進が見えてきた

  4. 4

    永野芽郁は映画「かくかくしかじか」に続きNHK大河「豊臣兄弟!」に強行出演へ

  5. 5

    永野芽郁“”化けの皮”が剝がれたともっぱらも「業界での評価は下がっていない」とされる理由

  1. 6

    元横綱白鵬「相撲協会退職報道」で露呈したスカスカの人望…現状は《同じ一門からもかばう声なし》

  2. 7

    関西の無名大学が快進撃! 10年で「定員390人→1400人超」と規模拡大のワケ

  3. 8

    相撲は横綱だけにあらず…次期大関はアラサー三役陣「霧・栄・若」か、若手有望株「青・桜」か?

  4. 9

    「進次郎構文」コメ担当大臣就任で早くも炸裂…農水省職員「君は改革派? 保守派?」と聞かれ困惑

  5. 10

    “虫の王国”夢洲の生態系を大阪万博が破壊した…蚊に似たユスリカ大量発生の理由