「日本で100年、生きてきて」むのたけじ著
「何よりも懸念されるのは、『自民1強』となって、安倍内閣が図に乗ること。戦争というものの実態を知らない若い政治家が威勢のいいことを言って、軍国日本に戻る可能性が高まった。そう思える」
2013年8月、参院選での自民党の勝利を受けて、老ジャーナリストはこう語った。2年後の今、懸念はその通りになっている。
むのたけじは今年100歳。若き日に朝日新聞記者として中国、東南アジアを取材し、戦争の惨禍を目の当たりにした。1945年、8月15日。敗戦の日に、「負け戦を勝ち戦と書き、戦争遂行の手助けをした責任を取る」と朝日新聞を辞めた。そして、ふるさとの秋田県横手市に戻り、週刊新聞「たいまつ」を創刊。長年健筆をふるい、戦争をなくすことに命をかけてきた。
「戦争を自らが裁く作業をやらなければならなかったのにやらなかった。命が助かったというだけでぼーっとなって、全然能力なかった。私たちの世代が悪いのよ」
戦争は今もなくならない。それどころか、第3次世界大戦の危険性さえ出てきている。まだまだ伝えなければならないことがあるから「何とか生きにゃいかん」と、胃がんも肺がんも乗り越えた。朝日の後輩記者の聞き書きによって生まれたこの本には、100年の経験知が詰まっている。