「7本指のピアニスト」西川悟平著
西川悟平は1974年、大阪府堺市生まれのピアニスト。現在はニューヨークで音楽活動を続けている。ピアノを始めたのは15歳。ピアノに恋をした彼は、「この曲がいつか弾けたらいいなあ」という一心で猛練習を重ね、遅ればせながら音楽大学を目指した。
「絶対に無理だ!」。周囲は口を揃えた。しかし、彼の辞書に「無理」という言葉はない。なんとか大阪音楽大学の短大に合格し、その後、4年制への編入を志すが、失敗。百貨店内の和菓子屋に勤め、夢をあきらめかけていたとき、来日中の著名なピアノ・デュオの前座を務める機会を得た。そして、高い音楽性を認められ、ニューヨークに招かれる。
「よっしゃ! 来たあああっ!」。天にも昇る気持ちで渡米したその年、憧れのリンカーンセンター大ホールでニューヨークデビュー。翌年はカーネギーホールの舞台に立った。奇跡のような現実。順風満帆だった。
しかし、異変が起きる。指が自分の意思と無関係に強い力で内側に曲がってしまう。病名はジストニア。中枢神経系の障害による運動障害で、ピアニストとしては再起不能と宣告された。全てを失うのが怖くて、誰にも言えなかった。自殺も考えた。