「ナノサイエンス図鑑 未来が見える極小世界」ピーター・フォーブズ、トム・グリムジー著、日暮雅通訳
ナノテクノロジーが最初に具体的な姿として現れたのは、コンピューターのマイクロチップだった。そしていま、ナノサイエンスは、命が誕生した時点=ナノ構築された化学物質が生命の特性を持つにいたった時点に、人類を導こうとしている。
一見ランダムとしか思えないものが、どのように自己を組織化し、一貫した予測可能な構造になっていくことができるのか。
その自然界の自己組織化の原理の研究では、2種類の化学物質を混ぜ合わせるという単純な方法で、野草のような複雑な3次元構造をつくり出すことに成功している。
さらに、幅3ナノメートルというカーボンナノチューブの上を行く、厚さがわずか原子1層分しかないという2次元の素材「グラフェン」。その発見によって、ロシア生まれのオランダ人物理学者アンドレ・ガイム氏らが2010年にノーベル物理学賞を受賞したグラフェンは、薄く軽く透明で、なおかつ非常に強い性質を備えたシートで、さまざまなエレクトロニクスやデバイスへの応用の可能性を秘めている。
その他、物体を見えなくするクローキング(遮蔽)技術や、太陽エネルギーで二酸化炭素を炭化水素燃料に変換する銅と白金でコーティングした二酸化チタンのナノチューブなど環境問題の危機を救うナノ技術、そして体内で病細胞を標的にするナノボットといったナノ医学まで。そう遠くない未来の科学技術を解説。