私の心は「いっきに」天空へ飛んだ
「人間が異常な事件に遭遇したときに、いつも感じるのは、月や星が冷厳なことである。私も娘が亡くなった前夜、四方空襲の火の空で、いつもと変りなく瞬いている星に強い憤りを感じた」
が、それから半年ほど経ったときカロッサの言葉を思い出し、引用する。
――われわれの喜び、われわれの嘆きを星は永久に聞きとりはしない。しかし、星々の輝きは、われわれが喜び、嘆きに堪え得るよう、いつも優しい調子を保っていてくれる――。
本書は、平凡社から先ごろ創刊されたスタンダードブックスというシリーズの一冊である。寺田寅彦、岡潔、そして野尻の3人の科学読み物が、一作家一冊で編集されている。新書サイズながら上製本。その凛とした小さなたたずまいに、星に不案内だった私も手を伸ばさないではいられなかった。
そうして開いた星々の集まりは、忘れかけていた感覚を私に思い出させた。名著はときに、読書を悠久に誘う。事実、私はこの200ページちょっとの一冊を2週間かけて少しずつ読んだ。と同時に、既述の通り、私の視野は時空を超えたところに運ばれた。