私の心は「いっきに」天空へ飛んだ
「星は周る」野尻抱影著
「いっきに読んだ」。今や、本を評する際のひとつの褒め台詞だろう。実は私もときどき使う。けれど、星についての本を形容するには、いささか不適切にすぎる。赤く輝くアンタレース(火星の敵)の名からもわかるように、星は大昔から何も変わらないのだから。
という知識は本書で得た。正直に告白するが、この本に出合うまで、著者の野尻抱影も知らなければ(最初、タイトルがこれなのかと思ったほどだ)、星に関する知識は皆無に近かった。
本屋でページを繰って驚いた。戦前と戦後すぐに書かれたものばかりだったのだ。
「空を見上げながら歩いていれば、どんな晩でも淋しくはない。大勢の友だちのウィンクに逢っているのと同じだからである」(「星を覗くもの」)
冒頭のエッセーで、私の心は「いっきに」天空へ飛んだ。
野尻抱影は1885年生まれ(1977年没)の天文随筆家、と略歴にある。なるほど。その肩書にふさわしい名文の連続であった。
たとえば、45年に著された「星無情」。