震災後の日本を旅して“魂の故郷”を探す女性の物語
「死者が立ち止まる場所 日本人の死生観」マリー・ムツキ・モケット著、高月園子訳
欧米のホラー映画を見ていると興ざめすることがある。怪奇現象の正体が実は「悪魔」だったりすると、とたんにうそっぽくなって、「なんじゃそりゃ」という気分になるのだ。
では「幽霊」はどうだろう。日本人の私には、正直言って遭遇しないでいる自信がない。日頃は、私だって幽霊なんていないと思っている。しかし、被災地で幽霊話を聞くと錯覚だとは言い切れない自分に気づくのだ。
「死者が立ち止まる場所」は、日本人の母とアメリカ人の父を持つアメリカ在住の著者が、父を亡くして、近代的なカウンセリングでは癒やせない喪失感を癒やすため、震災後の日本を旅する物語だ。彼女は、被災地での除霊や、宿坊体験、さらに恐山でいたこに父の霊を呼び出してもらう体験を通して、日本人の死生観について学んでいく。
どうやら、我々は死者とともに生きているらしい。たとえば「オヒガン」。
「日本では遺族の悲しみは片道通行ではない。亡くなった者たちもまた、同じぐらい私たちを恋しがっているとされている。死者のほうは常に私たちを懐かしみ、私たちのもとに帰りたがっている」
改めて説明されると、当たり前の行事が神秘的な色合いで立ち上がってきて、我々がいかに死者の魂を身近に感じているかがわかる。著者のフィルターを通して立ち上がってくる世界を見れば、震災前と変わらない世界に住む人、新しい時代へと歩む人、そして、死者の魂とともに中間領域にとどまる人、と同じ日本にいても、我々は違う階層で生きていることがわかるだろう。
この巡礼の果てに著者に気づきが訪れる。
「私は自分自身の悲しみを、他のすべての人の悲しみという全体図の中に置いてみられるようになっていた。私の流した灯籠は他の無数の灯籠の一つでしかない」
本書は彼女だけでなく、我々日本人にとっての悲しみの形を発見する書であり、魂の故郷を探す書でもある。(晶文社 2500円+税)