「江戸へおかえりなさいませ」杉浦日向子著
05年に46歳で早世した江戸風俗研究家の遺稿を編んだエッセー集。
ある午後、好物のそばをたぐりながら「浮世絵はそばなんだ」と悟ったと、そばに通じる浮世絵の楽しみ方をつづる。
またある一文では、現代人は「熊さん八つぁん」が暮らす江戸の「九尺二間の裏長屋」に清貧のイメージを抱いているが、「彼らは長屋にしか住めないんではなく、自らの選択で住んだのであって、その行動は随分トンガリ、ツッパっていたのである」と解説。長屋は住環境は劣悪だが、最新の情報と刺激は浴び放題のアーバンライフなのだと。
長屋の処世術に学ぶプライバシーの確保法など、江戸の粋を伝える切れのいい文章が心地よい。(河出書房新社 1600円+税)