春の味 フキノトウにはオスメスあり
「大人の里山さんぽ図鑑」おくやまひさし著
外歩きが楽しい季節がやってきた。街歩きから本格的な登山まで、楽しみ方はそれぞれだが、その中間ともいえる里山さんぽの魅力を存分に教えてくれるのが本書だ。
図鑑をうたった書名から、里山の動植物を解説した本と思いがちだが、それだけではない。
試しに春の里山さんぽに出掛けてみるとしよう。名前だけは知っていたが、まだ見たことがない春を告げる「セツブンソウ」の自生地がある秩父へ。群生地を見つけるまでの自らのエピソードを添えて、フクジュソウやシュランなど、春の到来を告げる他の花々も紹介する。
さらに春の味として親しまれるフキノトウが、実は雌雄異株でオスとメスがあることや、山形の月山の麓のカタクリの群生地を歩いたときは、地元の方の許可を得て踏みつぶされたカタクリの根を持ち帰り本物の片栗粉作りに挑戦、ほかにも22種もあるタンポポや各種スミレの見分け方など。各ページに小テーマが設けられ、興味深く読み進めるうちに、植物や生き物に詳しくなれるという趣向だ。
夏の里山では、里山歩きのオヤツになるクワの実のおいしさや野イチゴ狩りを紹介。ついでにそのジャムのレシピなど、見るだけでなく味わう里山の魅力にも言及。一方で、葉っぱの裏に潜み、毒針毛で身を固めるイラガの幼虫たちには注意が必要だ。
落葉した森だからこそ観察できる冬ならではの里山の楽しみ方もある。葉が落ちたあとの葉痕がお猿さんの顔に見えるオニグルミなど、落葉樹の葉痕にいろいろな表情を探す遊びや、とがった枝に刺さって干からびたモズの速贄の犠牲者たちの展覧会など。季節ごとの楽しみ方が詰まっている里山ガイド。
国土の70%が山林の日本の里山には、お宝が詰まっている。(交通新聞社 1200円+税)