「成功者K」羽田圭介著
主人公は、小説家デビューして12年目に芥川賞を受賞した小説家K。ヘビーメタル限定カラオケ大会でメークをして歌っていたところに受賞の知らせが届き、そのメーク姿は一瞬にしてSNSで拡散された。
その後、このメーク姿が面白がられてテレビのバラエティー番組に出演したのを契機に放映日から世界が一変。通りがかりの知らない人にあいさつされ、本を読んだこともなさそうな人からも声をかけられて、外出時には帽子やマスクが必須になった。次々出演依頼が舞い込むうち、本は売れに売れて数万部単位で増刷が決まる。それ以上に変化したのが女性関係で、サイン会で目をつけた美女に声をかけ次々関係を持つことに慣れていく。果たして、有名人生活を満喫し始めたKの運命は……。
テレビへの露出で人生を一変させた小説家を描いた話題作。著者の体験をベースにした私小説風でもあり、あり得ないほどあけすけに描くことで物語に真実を紛れ込ませたフィクション風でもあり、読者を戸惑わせるギリギリの設定が心憎い。有名人をつくるテレビの力と、それに翻弄される人間の姿に考えさせられる。(河出書房新社 1400円+税)