“財界鞍馬天狗”を思い出させた元グーグル日本法人社長の正論
「出る杭」は伸ばせ! 辻野晃一郎著 文芸春秋
「自衛隊の派兵はもちろんのこと、派遣も反対です。憲法改正に至っては論外です。第2次世界大戦で日本はあれだけの犠牲を払ったのですから、平和憲法は絶対に厳守すべきだ。そう自ら規定すれば、おのずから日本の役割がはっきりしてくる」
「選択」の1990年10月号で、こう言い切っているのは、“財界の鞍馬天狗”と呼ばれた日本興業銀行元会長の中山素平である。
「となれば、カネだけの貢献ということか」
と問われて、中山は次のように力説する。
「とんでもない。それは違う。中東の和平、中東の安定のために日本が全力を挙げて協力するということだ。どこの国でも戦争を望んでいないし、当のフセイン大統領でも衝突を回避したいと考えているだろうから、日本は平和的解決のために汗と知恵を出すべきです。そこに日本の活路がある」
平和憲法を厳守し、中東でも手を汚していない日本が調停に立て、と堂々と主張する中山のような経営者はこの国に途絶えた、と私は思っていた。
しかし、ソニーを経てグーグルの日本法人の社長となり、アレックスを起業した辻野は中山の主張に全面的に賛成し、「週刊文春」のコラムで「日本は戦争で儲ける国になってはいけない」と書いた。
「『出る杭』は伸ばせ!」はその人気連載を厳選してまとめたものだが、書き加えた「はじめに」で辻野は「この国は、ついに人々の『働き方』についても、政府主導で変革を迫らねばならない国に成り果てた」と嘆く。そして、東芝の「粉飾決算」を「不適切会計」というあいまいな表現にするメディアにも注文をつける。「政権のダメージにもつながりかねない事態を緩和するためにSESC(証券取引等監視委員会)や東京証券取引所、経産省や金融庁などが一体となり、そこに政権や大広告主の威光を気にするマスコミも加わって『企業統治強化』をあらためて打ち出し、事件の隠蔽処理をはかろうとしている」と批判するのである。
「戦後、平和憲法の下、戦争放棄した我が国は『軍産複合体』化した戦前の国家体質を反省し、軍事と経済活動を相容れないものとして切り分けてきた。いわゆる『死の商人』ビジネスとは一線を画してきたのだ。しかし、一連の安保関連法案成立でついにその歯止めも取り払われた」と言う辻野の指摘を私たちは今こそ、味読すべきだろう。★★★(選者・佐高信)