トランプ政権を支える中間層の怒りと閉塞感
2016年11月、世界中に衝撃を与えたドナルド・トランプ大統領の誕生。その背景にあったのは、貧困層でも移民問題でもなく、長い間エリート層から軽んじられてきた、白人労働者層の怒りだった。
ジョーン・C・ウィリアムズ著、山田美明、井上大剛訳「アメリカを動かす『ホワイト・ワーキング・クラス』という人々」(集英社 1800円+税)では、トランプが「忘れられた人々」と呼ぶ「ホワイト・ワーキング・クラス」の実態について解説。彼らを取り巻く閉塞感をひもときながら、世界に吹き荒れるポピュリズム=大衆迎合主義の根源を分析している。
「ホワイト・ワーキング・クラス」とは、アメリカの製造業を支えてきた、いわゆるブルーワーカーのこと。家計所得分布の下位30%より上で、上位20%より下の世帯が当てはまるという。15年のデータでは、年間所得が4万1005~13万1962ドルの世帯である。過激な言動を繰り返すトランプ大統領誕生の原動力となった彼らだが、その実態はひとつの企業で真面目に勤め上げ、家族を養うことを美徳としてきた善良な白人労働者たちだ。
しかし彼らは、長きにわたって政府から軽んじられ、大きな怒りと失望をため込んできた。その表れのひとつが、貧困層への反感だ。オバマ前大統領は、2000万人に医療保険を提供する「オバマケア」を断行した。エリート層から見れば素晴らしい政策のように思えたが、大半のホワイト・ワーキング・クラスにとっては、貧困層よりわずかに裕福なだけの自分たちの保険料が増える羽目になっただけのことだった。
アメリカでは、貧困、移民、人種などの問題に積極的に対応する一方で、その負担をホワイト・ワーキング・クラスに押し付け、多くのメディアも彼らの存在を無視し続けてきたという歴史がある。ところがトランプは、彼らこそ社会の犠牲者であるとし、尊厳の復権を訴えた。政権運営が迷走する今も、ホワイト・ワーキング・クラスによるトランプへの信頼は揺るがない。それほど彼らの怒りと失望は大きく、ポピュリズムという形で国家運営にも影響を与えていると本書は指摘している。
日本の中間層及び安倍政権の現状と対比して読み進めてみたい。