著者のコラム一覧
北上次郎評論家

1946年、東京都生まれ。明治大学文学部卒。本名は目黒考二。76年、椎名誠を編集長に「本の雑誌」を創刊。ペンネームの北上次郎名で「冒険小説論―近代ヒーロー像100年の変遷」など著作多数。本紙でも「北上次郎のこれが面白極上本だ!」を好評連載中。趣味は競馬。

「この世の春」(上・下)宮部みゆき著

公開日: 更新日:

 宮部みゆきの作家生活30周年記念作品であり、2017年の新刊はこれだけというから、これはぜひ読まねばならない。しかしこれは、時代小説なのだが同時にミステリーでもあるので、粗筋紹介には注意が必要だ。

 冒頭で語られるのは、主君押込である。つまり家臣による主君の強制隠居。その理由は、当該の主君の不行跡と暴政だ。

 で、北見藩の6代目藩主、重興は座敷牢に押し込められ、多紀がその世話をすることになる。多紀が選ばれたのは、その母が、人の霊魂を操り、それと意思を通じ合わせる技(御霊繰)を持つ一族の出、だからである。その一族の血を引く者ならば、元主君の役に立つのではないかと、多紀に声がかかったというわけだ。つまり6代目藩主、重興の不行跡とは、何か人の霊魂を操る者に関係しているのではないか、というムードがここから伝わってくる。

 そうか、だから、「サイコ&ミステリー」なんだ、と思うところだが、そんな「フツーの話」を宮部みゆきが書くと思いますか? おっと、これ以上は紹介できない。

 構成が凝りに凝っていること、わき役たちの造形が秀逸なこと、暗く重い話であるのになんだか力がむくむくと湧いてくること――そのすべてが素晴らしい。これは宮部みゆきにしか書き得ない物語だ。

 2017年に小説を1冊だけ読むとするなら、本書だけでいい。そんな気がしてくる傑作である。

 (新潮社 各1600円+税)

【連載】北上次郎のこれが面白極上本だ!

最新のBOOKS記事

日刊ゲンダイDIGITALを読もう!

  • アクセスランキング

  • 週間

  1. 1

    三浦大知に続き「いきものがかり」もチケット売れないと"告白"…有名アーティストでも厳しい現状

  2. 2

    「とんねるず」石橋貴明に“セクハラ”発覚の裏で…相方の木梨憲武からの壮絶“パワハラ”を後輩芸人が暴露

  3. 3

    サザン桑田佳祐の食道がん闘病秘話と今も語り継がれる「いとしのユウコ」伝説

  4. 4

    松嶋菜々子の“黒歴史”が石橋貴明セクハラ発覚で発掘される不憫…「完全にもらい事故」の二次被害

  5. 5

    NiziU再始動の最大戦略は「ビジュ変」…大幅バージョンアップの“逆輸入”和製K-POPで韓国ブレークなるか?

  1. 6

    今思えばゾッとする。僕は下調べせずPL学園に入学し、激しく後悔…寮生活は想像を絶した

  2. 7

    下半身醜聞の川﨑春花に新展開! 突然の復帰発表に《メジャー予選会出場への打算》と痛烈パンチ

  3. 8

    モー娘。「裏アカ」内紛劇でアイドルビジネスの限界露呈か…デジタルネイティブ世代を管理する難しさ

  4. 9

    伸び悩む巨人若手の尻に火をつける“劇薬”の効能…秋広優人は「停滞」、浅野翔吾は「元気なし」

  5. 10

    小松菜奈&見上愛「区別がつかない説」についに終止符!2人の違いは鼻ピアスだった